今泉 悠 メイン

「WALL DECOR journal」Vol.3は、人気アイウエアブランド「ayame」を手がける今泉悠さん。

「WALL DECOR」で額装した三枚を通して、これまでの道程を振り返ります。

 

2017年10月18日 取材・文:BAGN Inc 撮影:藤堂正寛 

ー今回、今泉さんが「WALL DECOR」で注文したのが合計三枚。工場の写真が二枚、メタルフレームの眼鏡が一枚ですね。この三枚を額装した意図をお聞かせいただけますか?

はい。ここは福井県鯖江市にあるメタルフレームを専門に製造している眼鏡工場です。我々のブランドにとっての心臓部といっても過言でないところですね。今では職人さんとのコミュニケーションもできるようになりましたが、ブランド設立当初は専門的な知識もないまま眼鏡を作りたい一心で鯖江に通いつめて、こちらの工場でもたくさんの試行錯誤をしていただいて。今回のお話をいただいて「初心忘るべからず」ではないですが、この空間を収めておきたいなと。iPhoneのカメラで撮影しました。

 

img-Kaori Mochida

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モノクロ印刷にしたことで様々な想い出を想起するんでしょうね。ここで今泉さんがアイウエアデザイナーになるまで歩んできた道のりについて、お聞きしたいと思います。どんな少年時代を送りましたか?

僕は茨城県潮来市の出身です。田んぼに囲まれた中で育ち、小学生までは平和な毎日でしたが、中学校に入学するといわゆるヤンキー文化が台頭してきました。「ヤンキー=格好いい」の世界に僕は馴染めなくて。それで進学は茨城県内ではなく、千葉県にある高校に入学したのですが、地元にいる時とさほど状況は変わらず(笑)。なのでいつも未来を見据えていましたね。将来は手に職をつけたいと思っていた矢先に、地元の美容室でアルバイトの求人があり、高校とアルバイトの両立をしていく中で美容師を目指しました。

青野賢一Large

ー念願の美容師にはなれたのですか?

はい。でもすぐに辞めてしまったんです。美容学校に入学したら一学年1,000人いて、毎年1,000人が卒業して美容師になるという現実に直面したら、僕でなくてもいいのかなと思いが強くなってしまったんです。 それで就職した美容室もすぐにやめました。それからは遊びたい盛りでもあったので、代官山のクラブ「UNIT」で働きはじめました。そこで眼鏡の魅力にはじ めて触れるんです。「UNIT」で出会った学生がとても素敵な眼鏡をしていて、「なんでそんなに眼鏡が似合うの?」と思わず声に出してしまって。これまで僕 にとっての眼鏡はネガティブなイメージしかなかった。視力を矯正するだけもの。どこか根暗な感じがするもの。それだけしかなかった価値観が崩壊し、眼鏡 に対して興味が湧いてきたんです。そんな時に福井県鯖江市が眼鏡の産地であることを知り、幸いにも工場見学をさせていただきました。

ー眼鏡に対する好奇心が高まるばかりだったんですね。

そうなんです。メガネにこんなに興味が湧くんだったら、日本のメガネブランドもリサーチしてみました。ところが鯖江という産地がありながらも日本発メ ガネブランドが少ない。そんな時に外苑前の眼鏡店「ブリンク」で、イギリスのブランド「CUTLER AND GROSS」に出会いました。なんてこんなに素敵なフレー ムなんだろうと衝撃を受けました。眼鏡が視力矯正器具だけでなく工芸品としても成立すると感じたんですね。日本人の骨格に配慮しつつ、工芸品としての側 面がある眼鏡があったらいい…若かったし、時間も持て余してたから、もしかしてメガネって作れるんじゃないかって勝手に思っちゃったんです。いや、もう 作ってしまおうと。

 

一枚の写真
一枚の写真

ーその時はおいくつですか?

21歳か22歳の頃でした。無知だったからこそエネルギーが費やせたんだと思います。「独学でメガネを作る。ブランドをやる」と宣言しました。「そんなの無理じゃん」と散々言われてましたが、もともとヘアメイクも勉強していたから、それも強みになると思ってまして。メイクの延長上で、ずっとスケッチ をしていたらメガネの形を描けるようになりました。そして鯖江通いがはじまりました。サンプル作れる人をご紹介してもらって、そこからようやくブランド がデビューしました。「ayame」という名前は、茨城県潮来市のシンボルの花であるアヤメ(菖蒲)に、目を彩る=彩目(あやめ)という想いを重ねています

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ー好奇心と行動力の賜物ですね。

僕のメガネはコンセプチュアルじゃないし本当に作りたいものしか作っていないんです。でもいつも思うのは考えてから動くんじゃなくて、動いてから考える。だからいつも行動が先になるんです。

ーそれでも今泉さんのメガネにはしっかりとしたコンセプトやストーリーが内包しているように感じますが。

無意識の感覚や出来上がった形を見ながら意図やコンセプトが浮き上がってきた形ですね。何かを作るときにまず熱量。行動と思いを積み重ね、その背景 には僕の中でまだ言葉にできないコンセプトがあり、突き動かされたのちに言語化している感じです。デザイナーの顔が見えないブランドはたくさんあります 。だけど人からモノを買う以上、メガネにも体温を込める意味でもデザイナーの顔は見えたほうがいいというのが僕の考えです。そうでないと皆に対して愛着 を持ってもらえないと思います。

青野賢一 イメージ

ーブランドを立ち上げてから、かなり苦心されたと思いますが、印象に残っているエピソードありますか?

ブランドを始めるまでは職人さんと全く話せなかったんです。何を話してもいいのかわからなかった。これは自分が学習することでなんとか払拭できました。ブランド立ち上げてからも三、四年、首が回らない時もありました。お店にも工場にもご迷惑をかけた時がありました。振り返ってみると大変だった日々は、客観的な洞察力を養う時間でもありました。工場の方々、お店の方々を含め、眼鏡業界を活性化させるために、自分自身が何ができるだろう、何をすべきだろう、と考えていました。結果としてブランドの構築にも作用したと思います。

ーなるほど。今泉さんは「ayame」を世界標準のブランドにしていきたいと考えていますか?

よくそういうご質問があるのですが、僕は海外の市場は全く意識していません。海外でチャンスを広げるのもいいのかと思いますが、僕は根本的に日本人の顔に合わせるメガネを作っていますので。それを見失ってしまうと、「ayame」というブランドがぶれてしまうと思っています。僕にとって一番のマーケットは日本なんです。僕たちは、質と流通をコントロールできる国内のみに注力したいと考えています。線ひとつにしてもなぜそうなったか、本来あるべき姿にしているか、理由を言葉にできるか、そういうところを踏まえて僕はメガネをデザインしています。車やプロダクトでも造形美に対して意図がありますよね。眼鏡はかける人を象徴するものですから、遺品として顔の一部が残る。パーソナルなモノを映し出す部分だから、僕ら作り手からもユーザーに対して失礼があってはならないと思っています。

青野賢一 イメージ
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ー私は眼鏡をかけたことがなく、自分に似合うメガネがわからないんですが、何かアドバイスはありますか?

僕はよく馴染む=似合うと今まで言ってきたんですが、それも違うなと思っていまして。一般的には四角い顔は丸、丸い顔は四角いフレームと言われてします。眉毛の形に沿ったフレームも馴染みやすいですね。でも僕が今考えるのは「その人がどうなりたいか」。それさえあればいいと 思うんです。変身願望を一時的に叶えられるものですから。どうなりたいか、眼鏡をかけてどう見えたたいか。そのほうが大事かと思います。

ー違う自分になることで、力が湧く気もするんですよね。だからかけてみたいです。最後になりますが、今回「WALL DECOR」を使った感想をお聞かせいただけますか?

以前からスクエアな額装を探していまして、なかなかピンとくるものがなくて、それをまず実現してくださったのがびっくりでした。しかも発色が良くて。あと軽量なので賃貸物件でも設置がしやすいですね。

 

ー最初に手にされた時に軽さにびっくりされてましたよね。

はい。この重量であれば壁への負担もないですし。気分にあわせてレイアウトも変えやすいですね。あとこういう痒いところに手が届くサービスを、富士フイルムさんという大手がやっているところも信用ができますし。

 

ー喜んでくださって何よりです。今後、このように使ってみたいという構想はありますか?

注文から二週間以内に届くので今度はギフトにも使用したいと思います。あとは次回の展示会が年明け四月にありますので、その際にも今回のフレームや新たに商品を額装したものを展示したいと考えています。

 

今泉悠 イメージ
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Profile

Prof-kazumi-hirai

今泉悠(Yu Imaizumi)

ayame 代表/デザイナー。 茨城県生まれ。2009年、ayame設立。温故知新を基に、いつの時代も色褪せないカタチの創造を目指し、質の高い製品を追求。自社ブランドのみならず、国内外のアイウェアデザインやディレクションを行う。2016年、SWANSと協業したスポーツサングラスがアイウェアオブザイヤーを受賞。