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vol30

三好大輔

映像作家

消えかけている家族の記録。8ミリフィルムを探して。

今回のPHOTO IS POWER Vol.30はいつもの、「一枚の写真の力」ではなく
特別編として、「映像の力」についてお届け致します。

暗転した部屋で8ミリフィルムの映像を見る。
そこに映っているのはなにげない家族の日常。弁士はお父さんやお母さん。
昭和40年代までは多くの家庭で行われていた「ホームムービー」の上映会は
ビデオの登場、その後のデジタル機器の発達と共に行われなくなってきました。
映像作家 三好大輔さんは家庭に眠るフィルムを探し、映像作品にしています。
三好さんに、いままさに消えかかっている8ミリフィルムの映像について
お話をうかがいました。

取材・文:井上英樹 構成:MONKEYWORKS 撮影:藤堂正寛

ー三好さんはいろいろな地域で8ミリフィルムを発掘しているとか?

ビデオが登場する前までは家族の映像記録の主役は8ミリフィルムでした。そこに映っているのは子供の成長記録や日常の風景など、家族や友人たちの中だけで楽しむ極めてプライベートな映像でした。それが、40~50年の時を経たことによって当時のフィルムとは意味が変わってきています。今はもう映写機が壊れてしまっていたり、フィルムが劣化してカビてしまったりと、フィルムを観ることが困難になってきていて、「ゴミ」になってしまうこともしばしばあります。日常の映像記録が失われていくことを食い止めなくてはいけない。少しでも多くの映像を残したいという思いで、墨田区(東京)、足立区(東京)、大船渡(岩手県)、小豆島(香川県)、安曇野市(長野県)などをフィールドに、住んでいる方々からフィルムを収集し、映像作品にしています。

そこに映っているのはプライベートな事柄ですから、「こんなもので役に立つの?」と、よく言われます。しかし、そこに写されている映像は、テレビで見るような非日常の風景ではなく、ごく当たり前の風景です。その「日常の風景」を残していかなくてはならないと思うんです。家の前を三輪車で走ったり、おばぁちゃんに連れられて散歩に行ったり、友だちと一緒に小学校に登校したり。そんな毎日繰り返される「日常」。また、ホームムービーの中には運動会や祭りという特別なものも多い。だけど、それは年に1度は必ずやってくる「特別だけど日常の風景」なんですね。

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かつての映像を目にすると、撮影された人、撮影していた人たちがものすごく元気になるんです。なぜかというと、8ミリフィルムで撮影していた時というのは、彼らにとっての青春時代なんですね。その時を純粋に「残したい」という思いだけで撮っているので、その気持ちが浮き彫りになり、映像の強さに現れてきます。

プロは「きっちり伝えよう」という客観的な視点が映像に出ます。お父さんたちが撮っているホームムービーは、ほぼ主観だけです。技術的には拙いかもしれないけれど、他には無い力強さがある。その強さは時代を超えて今も生き続けていると感じます。

そして、昔は撮った映像を現像し、現像から戻ってきたら編集をして六畳一間のふすまに上映しながらお父さんが解説するという形が多かった。今みたいにカメラをテレビにつなげてボタンひとつではなく、部屋を暗転させて「いまからいくよ!」という緊張感もあった。

8ミリフィルムで映像を記録していた頃はまだまだ映像自体がすごく特別な物だったんですよね。画面の向こう側に自分がいること自体が、特別な経験だし、動いている自分なんてみたことない。それが映ったときの感動って、かなり大きかったはずです。

わずか3分の制約の中で1日の運動会をまとめています。フィルムは貴重なものだったので皆大切に使っていたそうです。また、編集しながら撮っているので観る人を飽きさせないんです。今の人はずっと長回しで、あとで編集するかというとしませんよね。昔の人は映画やニュース映画などで技術を学んだそうです。何度見ても新しい発見がありますね。

三好Large

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ー現在、小豆島でフィルムを集め作品にまとめているそうですね。

小豆島町では町と共同でプロジェクトが進んでいます。住宅全戸にチラシを配布してもらい、家に眠っているフィルムを貸してもらっています。デジタル化するだけではなく、デジタル化した8ミリフィルムをパソコンに取り込んで、提供者に見ていただきます。そのリアクションを撮るのですが、その反応がすごいんです(笑)。

あるおばちゃんは1時間以上テンションが上がりっぱなしで、「本当にいい死土産ができたわあ~」と言って喜んでくれた。あのリアクションを見たときには、本当に映像の力はすごいなあとあらためて思いましたね。

その映像を見ながら、「あの先生はどうしているんだろう」、「懐かしいなあ」という感想から、「昔は大きな船が港に着けなかったから、小さな船で大きな船まで漕いでいったのよ」というような、その土地ならではの風景や思い出がそこにあります。

ー記録をアーカイブ化していくというのは大変大きな意味がありますね

ええ。地域のフィルムを集めて上映会をする「ホームムービーの日(HMD)」という催しが世界中で行われています。年に1度、世界17カ国100都市で祝われています。世界的に見てもそうですが、日本もホームムービーの保存活動はまだ確立されていないので、それぞれ自分たちのやり方で模索しているのが現状なんです。

ホームムービーの日のように地域で上映会をやることは、とても意義があると思います。ですが、その場にいた人しか見ることができない。僕はその土地に住んでいない人たちにも、土地の魅力を伝えたいとも思うんです。古いフィルムをひとつの映像作品にして、魅力があるものとして見せることができたら、より多くの人に伝わると考えています。

いま僕は収集した8ミリフィルムを作品化して、上映会を開いています。作品は違う土地でも上映できますし、ネット上で見てもらっても、映画祭で上映してもいい。小豆島なら、小豆島の魅力をぎゅっと詰め込むことによって、8ミリフィルムの魅力を伝えながら、その土地の魅力をその土地の方だけでなく外に向けて発信することが出来ると思っています。

ー三好さんの考える8ミリフィルムの良さとはなんでしょうか。

自分の記憶の風景と重なり合うのが8ミリフィルムの良さではないかなと思います。解像度としては当然4Kには劣る。コマ数も少ないけれど、見ているとそれが心地よい。1秒間に表示されるコマ数はテレビに比べて少ないのですが、見ているわれわれは、その隙間を想像力によって埋めていく。見ている人たちは想像力を使って見るから心地いい。きっと8ミリフィルムの持っている奥行きというのは人の視点に近いのかもしれないですね。

例えば「昨日、子どもと行った公園の風景」を僕はどこか曖昧でぼんやりとした映像で記憶しています。 それと、8ミリフィルムは写真とは違い、時間軸を持った記録媒体なので、一瞬にして撮影された時空間に戻れます。子供の縄跳びひとつで、当時の記憶に戻れたりする、言わばタイムマシーンのようなものなのです。過去の記憶が8ミリの記録と重なり合う。それが、8ミリフィルムの良さでありホームムービーの魅力なんだと思います。

三好Large

ー今後のプロジェクトは?

いま、小豆島と平行して、自分が住んでいる安曇野市でもプロジェクトを立ち上げています。集めた映像を作品化して上映をし、提供者にはDVDにして配布します。その映像はアーカイブとして博物館や自治体にストックされる予定です。「あそこに行けば古い映像が見られる」という受け皿を作ることによって、どんどん素材がストックされていく状況が作れたらと思います。

ホームムービーをどう残していったらいいかは、世界中でまだ答えが出せていない状況です。まずは日本でアーカイブを作らなくてはいけないと思っています。いま、8ミリフィルムがどのような状況にあるかというと、押し入れの奥深くに仕舞われていることがほとんどです。湿気やけカビで劣化が結構進んでいます。保存環境によりけりですけれど、フィルムがワカメ状にヨレてしまっているものも多い。復元作業は難しいですね。いまやらないと、貴重な映像がどんどん失われてしまう。けれども修復の義実は日々進化しています。どんなに劣化したフィルムも今の技術をもってすれば再生可能です。 一見してボロボロのフィルムだからといって諦めないで欲しいです。

おじいちゃんやおばあちゃんの家から古いフィルムを見つけても、箱が傷んでいたり、フィルムが伸びていたりすると孫世代はゴミだと思ってしまうかもしれません。上映したいと思っても映写機がなければ、もういいやと捨ててしまうかもしれない。しかし、そこに映っているのは他のどこにもない特別な映像です。いま、そのフィルムに新しい価値が生まれています。記憶が失われてしまう前に8ミリフィルムの映像を次の世代につなげていくこと、それが今の自分に与えられた使命だと思っています。

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Profile

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三好大輔(みよし だいすけ)

1972年 岐阜県生まれ。
大学卒業後に映像制作会社に入社。広告制作会社を経て2005年 映像作家として独立。
2008年より、東京藝術大学美術学部デザイン科講師。
伝統工芸、伝統文化の映像による記録保存活動のほか、
近年は一般の方々が記録したホームムービーの収集/保存/修復/公開など、
全国各地で地域映像アーカイブを立ち上げ、
過去の映像を後世に繋いでいくための活動に力を入れている。
2015年、映像制作会社 株式会社アルプスピクチャーズ設立。
長野県安曇野市在住、4児の父。

アルプスピクチャーズHP http://www.alps-pictures.jp

Comment

記憶の欠片を拾い集めて

8ミリフィルムで記録された映像はただの個人の思い出ではなく、時代を経た今、貴重な地域の映像史料や民俗学の資料として活用されるべき大切な記録に生まれ変わってきています。フィルムの掘り起こしが急務となっている今、全国各地でホームムービーを自主的に上映する活動も広がって来ている一方で、ゴミになってしまうフィルムも多く存在します。フィルムの収集は所有者の高齢化やフィルムの劣化などがあるので、これから5年が勝負。大切な記憶が失われてしまう前に、まずは残さなければなりません。人々の記憶の欠片の集積は、新たな価値を生み出す可能性を持っています。

日本の豊かな営みを取り戻したい

子供たちに残すべき映像は何だろう?そう考えながら辿り着いた地域映像アーカイブ。収集したフィルムを通して、ここ数十年の変化を知ることが出来ます。風景だけでなく人々の暮らし方も大きく変化してきました。便利さと引き換えに失われたものの大きさは計り知れません。かつて人々はモノを大切にし、地域の中で繋がり合って生きていました。そんな日本の豊かな営みを取り戻したい。セーターを編み直す農婦、地域対抗運動会、三世代が囲む食卓。そんな当たり前だった暮らしがフィルムに刻まれています。モノは無くても豊かだった時代。その本物の豊かさこそ、次の世代に引き継がなければならないものなのです。

地域映像アーカイブとは

高度経済成長と共に一世を風靡した8ミリフィルムは、家族や友人など個人的な記録として楽しまれてきました。それらのフィルムは現在、撮影者の高齢化やフィルムの劣化、映写機の故障などにより再生されることがほとんどなくなってしまいました。 そんな中、個人が記録したホームムービーを地域の映像史料として活用する動きが全国に広まりつつあります。便利さを追い求める中で失われてしまった大事なものが8ミリフィルムに残されています。地域映像アーカイブは過去の記憶を未来へ繋いでいく仕事です。

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