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vol30

高橋了

デザイナー

僕は「良い写真」という感覚がわからない。

声をかけたのか  向こうからか、なにも覚えてない。

雑誌や写真集の制作を多く手がける高橋了さん。
今回の「1枚の写真」は、新宿で撮影した外国人旅行者の写真。
偶然撮られたその写真はその後の高橋さんの「考え」に寄り添うものとなりました。
10代に撮った「1枚の写真」に込められた思いを訊ねます。

2015/6/18 取材・文:井上英樹 構成:MONKEYWORKS 撮影:藤堂正寛

ー今回の写真はおそらくは外国人旅行者たちの写真。これは東京で撮影したものですか?

僕の中で「1枚の写真」というキーワードを思い描いたときに、どうしてだか、ふとこの写真が頭に思い浮かんだんです。
10代の頃に撮った写真です。当時、僕は服飾の専門学校に行っていて、授業の中で写真を撮る課題がありました。もう20年くらい前なので、あまり詳しくは覚えていないけど、確か「新宿を撮る」という課題でした。
「新宿を撮れ」という課題で、そこで新宿を撮ってもおもしろくない。写真が格好良ければ、そこに新宿っぽさはいらないかなと思った。昨日、写真を探し出して見つけたのですが、記憶が美化されていたのかな。今見ると、……それほど格好良くはないですね(笑)。

img-Ryo Takahashi

高橋了さんが選んだ一枚の写真

一枚の写真

img-Ryo Takahashi

ーずっと手元に置いていた写真なのですか?

しばらく見ていなかったけれど、ずっと記憶の隅にこの写真が残っていました。場所は新宿東口のアルタの近く。僕から声をかけたのか、向こうから話しかけてきたのか。どうコミュニケーションを撮ったのかは覚えていません。だけど、向こうは少し親しげですし、なにか話をしたのでしょう。写真が出来上がったとき「あ、バンドみたいだな」って感じたのは覚えています。なんだか、どこかの国のバンドの人たちがライブの後に東京の街を観光しているみたいでしょう(笑)。新宿にいる人に声をかけて「記念写真」を撮るのは気恥ずかしいけれど、これはすごく自然な表情で、「バンドのオフ感」が良く出ている。なぜだか、好きなんですよね、これ。

高橋了Large

ーたしかに、ライブ後のバンドの休日みたいですね(笑)。

ええ(笑)。課題では、ほかにも人を撮っていたけれど、後ろ姿とか歩き姿とかでした。正面から撮った写真はこれ以外にはなかった。バンドみたいな人たちだけあって、彼らはウェルカムな感じだったでしょうね、きっと。
写真をそれを見ているうちに彼らを勝手にバンドに見立てて、ツアーTシャツ作ってみようかとかいろいろ妄想していました。こんなバンドみたいな人たちを撮り続けるのもおもしろいと考えた。
僕はそういうコンセプチャルなことが好きだったんです。当時使っていたのは故郷の父から借りたままの一眼レフでした。機種名とかはまったく覚えていませんね。今も家のどこかにあると思います。

ー当時は写真をよく撮影したんですか?

ええ。10代の頃はよく写真を撮っていました。なにを撮っていたかというと、……人は撮らなかったですね。トーキング・ヘッズのデビット・バーンが「俺は人は撮らない」って言っていて、なんだかその姿勢が格好いいなあって思って、僕も撮らなかったんです(笑)。

……というより、人を撮る以前に、僕はコミュニケーション能力が高くはないので、人を撮るってちょっと難しかったんでしょうね。それよりも、物とか風景とかを撮るのが好きでしたね。「バンドみたいな人たち」の写真を探しているときに何枚か出てきました。お菓子のウエハースとかチョコとか、ワニの人形とか。……なんでこんなの撮っていたのかわからないけど、結構撮っていましたね(笑)。

高橋了Large

ー高橋さんの中ではどういう写真が良い写真なんでしょう?

写真集が好きで、写真も撮ることは好きだった。当時から今でも、コンセプシャルな写真に惹かれます。写真に心情は大切だが、そこに写っているものは嘘でも本当でも僕にとってはあまり大きな問題ではないと思っている。

つまり「写真は写真だ」ということです。その「写真自体の格好良さ」が大切だとおもうんです。だから、世間一般に言う「良い写真」っていう感覚が僕にはよくわからない。デザイナーという仕事柄、写真を選ぶことが多い。その時、「良い写真」だけど使えないことがある。世間的には構図が良くて、ピントが合って、美しい「良い写真」なのだけど、そこに大事な物が写っていないことがある。時には平均的ではない、写真の持つ弱さも強さも好きです。

ー高橋さんの中で写真とはいま、どんな存在ですか?

僕のなかで写真という存在はアートの領域に近くて、今はいろいろな形態の写真家が存在する。例えば自分で撮影した写真ではなく、フリーマーケットで手に入れたものや、倉庫で発見した古い写真などを編集して写真集に仕上げる「ファウンド・フォト」という形がある。

また、Googleで見つけた画像を大きく引き伸ばして展示をする"写真家"もいる。カメラを使わない写真家なわけですよね。これまではカメラで写真を撮るのが写真家だったけれど、今はいろんなスタイルの写真家がいておもしろいと思いますね。

高橋了Large

ーいまはどういう写真を撮っていますか?

デザイナーになったある時期から、あまり写真を撮らなくなりました。それはカメラがおもしろくないとか、そういう消極的な考えではなくて、職業上僕よりも上手に撮る人たちが周りにたくさんいるから、僕が撮ることもないかなと思ったんです。

それともう一つ。自分でも写真を撮っていると、カメラマンと一緒に撮影現場に行ったり、写真を一緒に見たりした時に「自分ならこう撮るのになあ」とか「なんでこんな写真なんだろう」なんて、ふと思ってしまう。それが写真家の写真と向き合うときに、ちょっと邪魔なんですね。だったらもうカメラを覚えない方がいいかなと思った。10代の頃、あんなにたくさん写真を撮っていたのに、撮らなくなってしまいました。

しばらく、写真から離れていたけど、数年前にスパイカメラと言われるものを使ってみたんです。ほらあるでしょう。長細くて小さいカメラ。……まあ、これが難しいカメラで扱いが難しい(笑)。感光する、ぶれる、スパイカメラという触れ込みなのに任務失敗している。本当にスパイの人たち使っていたんですかね、あれ(笑)。なんにも撮れなかったけれど、久しぶりにカメラを手にした感覚はとてもおもしろかったですけどね(笑)。

img-Ryo Takahashi

高橋了 イメージ

Profile

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高橋 了(たかはし りょう)

1974年秋田県生まれ。
広告制作会社勤務を経て、フリーランスのアートディレクター/グラフィックデザイナー。
書籍、写真集、雑誌、CDジャケット、カタログ、webなど色々とデザイン。

MOUNTAIN GRAPHICS
https://mountaingraphics.co