Lee Izumidaメイン

「WALL DECOR journal」Vol.14は、アートディレクター、デザイナーとして
御夫妻で活躍している
中村圭介さんと野本奈保子さんにお話を伺いました。

 

2019/10 取材・文:BAGN Inc 撮影:藤堂正寛 

ーすっきりとして気持ち良く過ごせそうなご自宅ですね。家づくりはどのようにされたのですか?

中村:設計は佐々木達郎建築設計事務所にお願いしました。佐々木さんは同郷という所縁もあったのですが、これまでのお仕事を見て「この人だったら」と思いまして。

野本:建築家にすべてお任せをいうのではなく、自分たちの思いや計画もしっかりとあったので。

中村:こちらの思いを聞いてほしいと言うのはもちろんありますが、言ったことをそのままやってもらっても困りますし。佐々木さんはご自身で好きなように設計するというよりは、コミュニケーションを大事にしながらタイプの建築家で。とはいえ確固たるこだわりも持っていて。そのバランスがとても良かったんです。

 

 

中村圭介野本奈保子

ー実際に建築計画を進めていく中でどんなことが印象に残りましたか?

中村:空間の認識の仕方が新鮮でしたね。それこそ模型をいくつも作って。

野本:「もう大変だからいいよ」ってくらい、たくさん模型を作ってくれました。何より住むのは私たちだから「ここはこうしたい」ということをしっかり伝えて、それを加味しながら計画を進めていく感じでした。間取りのベースは私たちでも考え、それを元に組み立てて頂いた感じです。

中村:例えばこちらがイメージしていることをそのまま形にしてしまうと、こういう点において支障があるよということを指摘してくれたり、プロはプロのポイントがあって。「なるほどな」と感心しました。

野本:佐々木さんは論理的に説明してくれますが、私は見た目の好みや感覚で意見することも多かったので、一番長く家にいる人間ですし...、最後の最後で計画をひっくり返すようなことを言ったりもしました(笑)。

中村:なので僕と野本と佐々木さんと彼のスタッフの四人で、三つ巴ならぬ四つ巴の感じで(笑)。たぶん、まとめていくのが大変だったと思います。最終的にバージョンにすると8くらいまであるんですよ。その都度、佐々木さんたちが熟考してくれて。しっかりと対話ができて本当に良かったと思ってます。佐々木達郎建築設計事務所では、住宅は一年に一件しか手がけていないそうで、それくらいじっくりと寄り添ってくれる方でした。

野本:丁寧に対話をしてくれる方で助かりました。それこそ土地探しの時から関わって頂いて、現場にも何度も来てもらったし、家づくりなんて知らないことだらけなので本当にありがたかったです。

中村:このご縁で自分の会社の改装も佐々木さんにお願いしました。

 

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ーそれでは今からこの素敵な空間に「WALL DECOR」にて、パネルにされた8点を飾らせていただきます。(パネルを置きながら)とても映えますね。オーダーしてから実物が出来上がってみて、率直な感想をお聞かせいただけますか?

中村:すべての写真はスマートフォンのカメラで撮影したもので、解像度の心配は多少ありましたが、思った以上に綺麗な仕上がりになったと思います。

野本:形になるとまた印象が違いますね。いざオーダーするとなったとき、どちらの印画紙にしようか迷いましたね。

 

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ー今回、8点すべてカジュアルタイプをご希望でした。このフォーマットで対応している印画紙が、パール、クリスタル、ラスター、グロッシーとあるなかで「ラスター」(半光沢で落ち着いたマット調のプリント)をお選びになりました。

中村:迷いましたが、ラスターにして正解でした。(A2サイズのパネルをみながら)大きいサイズになっても落ち着いた印象になりますね。以前、自分たちでプリンターで出力したものでアルバム作りを試みたことがありました。そのときは望み通りの質感が出なくて途中でやめてしまって。その点、「WALL DECOR」は印画紙の選択ができ、希望の質感を出せるのがいいですね。他の写真でも試したくなります。

野本:普段から写真は出力もしないし、子供のアルバムもないので…写真が形になるのは改めて良いなと思います。

 

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ー中村さんと野本さんは普段はどのように写真を管理しているのですか?

中村:スマートフォン内で写真が溜まっていくと、例えば子供写真だったら、一歳、二歳と節目ごとにアルバムを作成し、クラウド上で保存していますね。そのデータを自分たちや実家の両親とも共有しています。

 

ースマートフォンでは気兼ねなく撮影できる分、データは溜まっていく一方ですよね。先ほどプリントのお話がでましたが、スマートフォンやパソコンで見る写真は、プリントしたものと比較すると人の記憶に残りにくいというデータがあるそうです。さらに住空間に家族写真の有無が、子供の成長に大きく作用するという意見を唱えている研究者もいるようです。

野本:なるほど。振り返ると今までは家族の写真は飾っていませんでした。

中村:どちらかというと自分も写真を飾ることが苦手だったというのがあります。ですが、今回、このような機会をいただいて、では何を飾ろうかと考えたとき、やはり子供の写真かなと思ったんです。

野本:そうなんです。今回写真をパネルにして飾るとなったとき、プロのカメラマンよりも自分が優れて撮れているもの、それに勝る写真ってなんだろうと考えたんですよね。となると子供の写真しかないなと。私の視点がそこにちゃんとあるからだと思うんですが。ベタだな、というのもあったのですが、眼差しとか視点という意味では…それ以外ないかなと。子供が生まれてからスマートフォンの中は子供の写真ばかりになっているのもありますが。

中村:仕事柄二人ともプロのカメラマンとの仕事が多く、彼らの写真をセレクトし、一緒に写真集も作ったり買ってみたりもしているので…写真が好きなんですけど、その分逆に写真に対してハードルが高くなってしまっていたのも事実です。「さて、どんな写真を飾ろう」となったら…

野本:ちょっと悩んだよね。子供の写真もにっこり笑っているような、正面からの写真は選んでいないんですよね。気恥ずかしさからなのか(笑)

 

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ーなるほど。確かにお選びいただいたのは後ろ姿だったり、仕草だったり。どれもお子様の年齢がバラバラですよね。

野本:そうですね。これまでをふり返りながら選んだのでバラバラですね。

 

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ー写真をお選びになるときは、ご夫妻で何か話し合いはされましたか?

中村:テーマは「子供」って決めたけど、そこからさらに選ぶのが難しかったね。

野本;毎日見ても嫌じゃないもの、は何んだろうとか…

 

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ー1枚の写真には確実に親としての視点が入ってますものね。簡単に言語化できない心情もあったと思いますし。今回、パネルのサイズは空間に合わせてお選び頂きましたが、A2サイズって選ぶ方があまりいないんです。

中村:アルバムというものをまったく持っていなかったので、どうせ作るなら大きいものが良いなと。家の中の置き場所次第ですが。

野本:なんかもっと大きく、倍くらいのサイズでも良かったかなと思いますね(笑)。ポスターサイズくらいの方が面白そうだなとは思ったくらいで。そういう意味でも最も大きいA2サイズを選びました。(こうして見ていると)その時の感覚を思い出したりしますね。

ー例えば、知っている人が見ればこの写真はお子さんだなと分かりますが、知らない人が見たら普通にアート作品のようにも見えると思うんですよね。

野本:普通の風景でも大きくするだけでアートになったりするじゃないですか。そういう感覚で普通じゃない方が良いなと。

 

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ー今回のサービスを利用するにあたり、床に置いたり、壁に立てかけたりするということをメインで壁に穴を開けずに設置するというお話でしたが、他にも写真展などにも利用できる「ミュージアム」というプロフェッショナル仕上げなどもございます。今後、お二人が使ってみたいサービスなどはありますか?

中村:そうですね。子供の写真というのは今後も成長の都度、タイミングごとに撮っておくのは良いかなと思います。

野本:この年、この年という風に年ごとに分けても良さそうですね。二人ともあまり過去を振り返るタイプではないので、そういう意味でもふり返っても良いなと思えるのは子供の写真なんですよね。自分たち二人のことはそんなに(笑)

ー今回はこちらからお願いしまして、中村さんにはお嬢さんのお写真以外にもパネルにする写真をご提案いただきました。それぞれの写真についてお聞かせいただけますか?

中村:玄関に選んだのは北海道の実家の近くの海沿いの道で、ただ何もない風景です。原風景ですかね。あと小さいパネルの写真(川)も北海道の渓流の風景です。有名な川というのではなくて、父親とよく釣りに行ったところです。釣りをはじめたのは小学校に上がる前。父親の後について渓流の中に入ったのが最初です。歳を取るにつれて、このような自然での経験が自分を形成するものの大半のように感じていて。何より純粋に自分が綺麗だなと思う光景なので、パネルにして置いても良いなと。「見たい」というより「置いておきたい」という感覚ですね。

 

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ーなるほど。北海道で自然と戯れていた中村さんがデザインとかアートの方にシフトというか、興味を示されるようになったきっかけというのは何だったのでしょう?

中村:それも父親の影響です。親父は養護学校の教員で、自分でものを作るのがすごく好きな人で。料理もするし、畑もするし、日曜大工もするし、何でも自分でやってみたい性分の人で。あるとき学校の課題でポスターを描くというのがあって、その参考資料を探そうと父親の部屋に入ってみたところ、『アイデア』というグラフィックデザインの雑誌が何冊かあって。それを引っ張り出して見た時に、東京のデザイナーの人たちが作ったポスターとかが載っていて、なんだか分からないけどこんなかっこいいものがあるんだな、という感じでそれらを模写したりして。中でも奥村靫正さんが手がけた細野晴臣さんの「S-F-X」というレコードジャケットが、一番最初に心が動いたものですかね。すごく不思議なコラージュをしたものなんですけど、ブルーの。あれをみてすごくかっこいいなと思いまして。

 

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ーそれをきっかけにデザイナーを志したのですか?

中村:いえ、当時はこういうものを作るのが仕事としてあるのかということは全くわかっていなかったですね。それこそ高校生まで「デザイナー」という仕事は知りませんでした。進路にあたっては、たまたま高校に武蔵野美術大学出身の先生がいて、「東京に行ってみたら?」という話をしてくださって。なので別にデザインがしたくて東京に出てきたわけではなくて、たまたまというか全部、偶然だったり人の繋がりで…という感じですね。漠然と美術の作家になったら面白いだろうな、くらいは思っていましたが、デザイナーになろうと思って来たわけではないんです。

 

ーでは野本さんは、美術の方向へ向かうきっかけは何だったのでしょう?

野本:私はずっとお絵描き教室みたいなところに通っていて。もうずっとそれしかやっていなくて。なんか途中までは出来てたんですけど、勉強も違うなって(笑)。もともとすごく絵が上手いというわけでもなくて、なんとなく居心地の良さそうな方へと流れて(笑)、そこの教室の先生から美大というところがあるよ、と教わって。そのまま美大に進学しました。何となくですけど、勉強するのも違うなとか普通のOLになるのも違うな、という感じで。楽しそうな方向へと…

 

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ーそれって自分のセンサーが働いていたってことですね

野本:こっちは違うかな、みたいなセンサーは働いていたかもしれませんね。すごくこれが好き!という強い力というよりは、何というか「こっちではない」という感じ(笑)

 

ーそれで美大に入って、デザイナーになろうと思った経緯は?

野本:それも一つ上の友達がデザイン事務所でアルバイトをしていて、自分が辞めるに当たって後輩を引き込むみたいな感じで何も知らずに連れられて行って(笑)。でも行ってみたら面白かったっていう。そのままバイトをしてそのままその会社に入りました。

 

ーなるほど。ご自身で強く望んでいる道ではないけれど、ただそこには楽しさはあって、という感じですね。今お二人は同業でありながら、別々に事務所を設けている形ですよね?二人一緒にやろうということにはならなかったのですか?

野本:かつて同じ事務所で働いていたこともあり、もう別でいいかもという。そもそも別だったら一緒にやってみようかってなったかも知れないです。

中村:一緒にやってみたこともありましたが…あまりうまくいかないこともあったので(笑)。

野本:それぞれの主張が噛み合わないみたいなこともあって。別でやった方が良さそうだねってなりました。

 

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ーなるほど。ではお子さんが生まれてから働き方や時間の作り方にも影響はありましたか?

野本:うーん、それは一生の課題でどれがベストかは分からないんですよね。答えはないと思いますけど、私は今は、打ち合わせや撮影以外はほぼ家で仕事をしているので、お迎えまでという限られた時間の中で最大限に働き時間を確保するとなると、通勤時間を削るというのに行き着いて。自宅で小さい場所ですけど自分のペースで仕事ができる環境はありがたいと思います。ただ、これがずっと続くのかどうかは分からないですけど、現状ではこれが一番効率が良さそうだとは思います。

中村:その辺もだいぶ話し合いましたね。僕のところはスタッフがいて会社にしていますけど、子供が生まれる前は働きたいだけ働いて「こうなりたい」「こういうものを作りたい」というものにひたすら向かっていく。そのためにはとにかく時間が勝負だから、やれる時間は全て仕事に費やすという考えでした。でも当たり前ですが、人生って仕事だけではない訳ですよ。この言い方は適切ではないかも知れないけどスタッフもみんな誰かの子供なんだと思うようになって。そういうこと、昔は正直わかっていなくて。それがわかった時に、このやり方はちょっと問題だぞ、と気づいて。だから普通にスタッフのみんなともう一度ちゃんとやろうと。それが三、四年前の話です。

 

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ーその頃のデザイン業界は働き方を意識的に考えるという風潮はあったのでしょうか?

中村:どうかなあ。僕の印象だけど、その頃はまだ業界的にはそういう働き方改革のようなことって「そうは言っても現実的に難しいよね」とか、「甘いこと言ってるな」という空気がまだありましたね。今はもうないですけど。あの時に気付けて良かったと思ってますね。なんかこのままでは危ないぞという危機感はとても感じていましたね。きっとみんなそう思い始めていた時期で、もう一回ちゃんと考え直そうよということで。

野本:昔のように徹夜することがかっこいいみたいな価値観は無くなりましたよね。

中村:「2日も寝てないよ」というようなことが自慢だったりね(笑)。その辺の変化は180度別人になったような感覚があります。今でもたまにフッと別の人格が出そうになったりもしますけどね。ただ、時間の決まりがあるということに縛られすぎると本質から離れてしまうこともあるので、生活するってどういうことだろう、とか働くってどういうことだろうということを自分なりに考え直したかったんでしょうね。さっき野本も言いましたが、結局答えは出ないんだけど、考えながらその時その時のことをやっていくようにしないといけないんだろうなと。これまでは仕事があるからやっていた、という感じだったり、今はダメって言われているからやらないとかそのどっちも違うかなって思うんです。




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ースタッフの方ともお話したり、考えを共有されたりするのでしょうか?

中村:そうですね、ちょくちょく話すようにはしています。仕事の時間についても僕はだいぶ楽になった気がしてたんだけど。彼らと話すとそれは自分の尺度なのだと気づきますよね(笑)。確かに時間をかけたからといって仕事のクオリティが上がる訳ではないし、結局モチベーションの問題なのかなと。いつ、誰と、どんな風にという事も含めて、働く環境って大事なのかなあと。そういうことって最終的には自分たちのデザインに反映されると思うんです。今、働き方はこれだって決めすぎちゃうのも違和感があって、まあ、頑なにならず柔軟でいたいなと思っています。

ースタッフの方も中村さんのそのような姿勢を常に見ているので、やがてデザインのみならず、働き方を考えることも継承されていくんでしょうね。本日はありがとうございます。

Profile

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中村圭介
株式会社ナカムラグラフ代表。1973年東京生まれ、稚内育ち。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業、2005年に岡本一宣デザイン事務所を独立。雑誌、PR誌、カタログ、料理書、書籍等、エディトリアルを中心としたアートディレクション・デザインから、アウトドアブランドLOGOSのVI、PR誌、パッケージ等のブランディングデザインまで精力的に活動中。第42回「造本装幀コンクール」東京都知事賞、日本印刷産業連合会会長賞、第56回 全国カタログ展 文部科学大臣賞、第59回 全国カタログ展 銀賞 
www.nakamuragraph.com

野本奈保子
グラフィックデザイナー。DNAは佐賀人、育ちは池袋と大塚。武蔵野美術大学 視覚伝達デザイン学科卒。岡本一宣デザイン事務所に9年在籍した後、独立。書籍、カタログ等紙媒体を中心に活動中。
www.nomo-gram.com

※株式会社 佐々木達郎建築設計事務所のHPはこちら