横溝賢史須藤由美メイン

「WALL DECOR journal」Vol.12では、ご夫妻でビームスに勤務する横溝賢史さんと須藤由美さんのご自宅にお邪魔しました。

 

2019年4月 取材・文:BAGN Inc 撮影:藤堂正寛 

ーここ数年、ご夫妻の恒例行事となっているという北海道旅行の思い出を今回パネルにされました。実物を目の前にして率直な感想をお聞かせいただけますか?

須藤:とてもキレイな仕上がりなので驚きました。こちらを飾っていたら「写真が趣味ですか?」って聞かれそうですね。「いや、スマートフォンでの撮影です」って答えたいですね(笑)
横溝:一眼レフを使ったわけでもないのに、スマートフォンでの写真が簡単なやり取りでこのようになるんですね。

 

森岡督行

ー(しばらく飾る場所を思案するお二人を見ながら)真剣モードですね(笑)

須藤:洋服のスタイリングと同様に血が騒ぐ感じですね(笑)
横溝:こだわり出したらキリがなさそうです。

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ーこれまで『WALL DECOR journal』にご出演していただいた方々は、小さなサイズのパネルでご注文されることが多く。A2サイズ(相当 / 400×602mm)はお二人がはじめてになります。大きなサイズとはいえ釘などで使用して頂ければ問題なく設置することができます。

須藤:そうなんですね。A2サイズのパネルとしては軽いと思います。
横溝:パネルの木端を黒く塗って引き締めるというような工夫もされていたり、視覚的にも重量感を感じさせませんね。

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ーご自宅を拝見すると絵画やグラフィックなどが飾ってありますが、写真を飾るということは今までにありましたか?

須藤:それがあまり無かったですね。飼ってた猫の写真くらいしか。
横溝:トイレに一点あるくらいで…
須藤:ましてや自分が撮った写真を飾るということはこれまで皆無でしたね。
横溝:そうですね、ちょっと恥ずかしさがあるというか。

ーなるほど。そもそも北海道に行くきっかけは何だったのでしょうか?

横溝:もともと二人とも仕事で全国に出張でまわっていまして。
須藤:北は北海道から南は鹿児島まで。
横溝:ある時から自分たちが訪れたことのない日本の土地に行くべきなんじゃないかと思うようになり、青森に行ったりとか、弊社の店舗のないところに旅行するようになりまして。その後は行ってる気になっているだけで実は何も知らないエリアがあるんじゃないかと思って。そこで思い当たったのが北海道です。
須藤:周り切れない分、行き続けないとと思って。それから北海道旅行は恒例行事となりましたね。
横溝:最初に知床、釧路の方に行って。次に札幌だけを巡るというのもあり、去年は小樽と旭川と苫小牧の東くらいまで行きました。

BEAMSLarge
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ー毎年きっちりと計画を立てて行かれるんですね。

須藤:そうなんです。今後はもっと北上してみたいですね。
横溝:特に八月頃はちょうど気候が最高によくて。東京でいうとゴールデンウィークくらいの気持ちのよい季節で。湿気もなくさわやかなので、そこで夏の北海道にハマったという感じですね。こちらのパネルにあるように空もこんなに綺麗で。まさに夏空という感じで。

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ー北海道に行くようになってから具体的にどのようなものから刺激や力をもらっていますか?仕事においても大きな作用はありましたか?

須藤:最初の知床では熊の出る所とか、自然公園とか、あとは船に乗って周遊したりとか、いろんな場所に立ち寄りました。その中で食べる物とか人に会うのもそうですし、ふと目につく様々なものからインスピレーションを得ていますね。例えば道中、道の駅なんかに寄ると、編物で出来たコースターがあって「これはどんな編み方なんだろう?」とか見るんです。あと縫い物も。日頃から服をつくっている自分たちの目線で見てみると、ふとした縫い物から「あ、こうやって刺繍をいれるんだな」とか意外なヒントが見えてくるんです。普段は都会で便利な物に囲まれていて、それ以外のものを知る機会が少ないので、こういった地域の方々の作り出すもの中にある、自然と共に継承してきた文化というか、まぁ地域の方々にとっては当たり前のことかも知れないですが、こういう小さな発見が私にとっては特別なことに思えるんです。

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ーそういった地域の異文化の中から気づきを得ているんですね。

須藤:そうですね。同じ日本なのに実際に行ってみないと知る機会もないから、やっぱり自分たちで旅をしてみないと分からないことだと思いますね。「この地域ではこの木が生えているから、この染め方が出来るのかな?」とか「この辺でのこぎん刺しの文化は古来からなのかな?」とか夫婦で話してみたり。あと前回行ったのはアイヌの村に行ったときも、その土地ならではの技術とか、原始的なものを守りながら暮らしている人々から感銘を受けまして。「この革はこのコートになっているんだ」「こんな靴の形になるんだ」などなど、そういうものに触れてみて、なんというか、食べるものも着るものも全部一緒で連動していることに気づき、東京に帰って来ると旅先で見たものを応用してみたくなったり、出会った技術をどうにか使えないかなど考える機会になりましたね。

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ーなるほど。アイヌの民族衣装はとても美しく、オシャレに映ります。

須藤:オシャレなんですよ。カナダやグリーンランドなんかもそうですが、みんな似てるんですよね。それこそ動物の皮を使って靴を作ったり、今見るとちょっと洒落た感じに見えるんですよね。
横溝:アザラシの胃袋を使った靴なんかもありますね。
須藤:そうそう、防水効果が高いみたいですね。
横溝:エスキモーとアイヌの人たちも共通するところがありますね。

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ーお二人の場合は「洋服」というひとつの柱があるから、旅を通して出会う異文化の方々の着こなしとかモノづくりにすごく惹かれるでしょうね。

須藤:惹かれますね。とても面白いなと思います。旅先での発見が少しづつ蓄積されているとはいえ、旅行は三日とか四日くらいしか行けないじゃないですか。そんな短い期間でその土地や文化から得られるものなんて、そこに暮らす人たちの1000分の1にも満たないというか、限られているんですが、それでも得られるもののひとつは想像力なんです。織物の色使いの掛け合わせだとか、例えば横溝は道具が好きだから、削り出されたヤジリのこんな形を見て、家の中に飾るとしたらあれと一緒に飾ったら組み合わせとして魅力的かな、とか。旅にでるたびに物の見方を鍛えさせてもらっているんでしょうね。どこか行って「可愛い」とか「キレイ」だけでは終わらなくて、何かを見たときに自然と仕事で使えることを学ぼうとしているのかも知れないですね。想像力をはたらかせて鍛えてるというか。それは北海道だけでなく、どこでも。他の県や他の国に行っても感じますね。ボーッとしてるのではなくて、せっかく行った三日間の中でも何か感じるものがあればいいなと。そういったことをこれまで口に出したことはないですけどね、そう思ってる気がしますね。個人的にはレディースカジュアル全般に関わる仕事に役回りが変化し、あらゆることに関心や興味が必要だと感じています。洋服に関わることだけでなく、各地の歴史や文化に触れていくことで知識を深め、人間としても成長していきたいと思っています。

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ープライベートな旅行はリラックスする時間でもありながら感覚を研ぎ澄まし、後にその体験を仕事に活用できる絶好の機会でもあると。

須藤:特に2017年からはじめたブランド「maturely」ではこうした学びを生かし、多くの共感を得られるように努力をしています。

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ー写真の話に戻りますが、こちらのアイヌの木彫りはどういったものなのでしょうか?

横溝:二風谷村のアイヌの博物館があって、そこにはアイヌの末裔の方が実際にいらっしゃっるところなんですが、これはその博物館の敷地内に何本か転がっていて、よくあるアイヌの木彫りの板とかトライバル柄みたいな掘ってあるお盆とかあるんですけど、そういったアイヌ伝統の柄を堀ったものですね。まぁ、おそらく古いものではなくて、今彫っているものだと思うんですが、それを撮ったものですね。

須藤:中に茅葺きの小屋があって、そこで織物をしている人と木を彫っている人がいて見学なんかもさせてもらいましたね。自然の中の大木に掘られているものと、生きていくための生業にしている木彫りの両方が見れて興味深かったですね。なんといっても博物館のハコ自体が素晴らしいです。着物をひとつひとつ保存しつつ、引き出して見ることができる展示だったり、保存して展示するという方法がとても優れていたり、什器も素晴らしくて、博物館全体でアイヌの文化に触れることが出来るんです。

横溝:僕はビジュアルマーチャンダイジング(視覚的要素の演出)をやっていた関係でどうしてもそういうところは見てしまうんですよね。この博物館の什器と見せ方はひとつひとつを大事にしている感じで、とにかく素晴らしかった。あとはアクセサリーなんかの展示も年代ごとでわかりやすくて、ビーズなんかも世界中にありますよね。

須藤:今回このパネルを作るに当たって写真を振り返る作業をしていたときに、三年分の旅行を見返して覚えているところの観点は夫婦でもちょっとずつ違うんですよね。そこも面白いなと。

横溝:それはありますね。こちらの空の写真は、夕暮れの湿原で、本当に綺麗だったんですよ。あの湿原には人は入れないじゃないですか?もちろん電柱もないですし、ほんとに山と原生林とで。太古の昔から変わっていないんだろうな、と。この湿原を訪れたことはスーパーバイザーという管理職のようなことをやっていて多忙だったんですよ。だからこそこういう景色をぼーっと眺める時間も大事だなと思うんですよね。敢えて人がいないところに行ったんだと思います。

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ー横溝さんは自然に触れることで本来の視座が保持できるような感じですか?体内をチューニングできるというか。

横溝:それは大いにありますね。こちらのイサム・ノグチのモエレ沼公園も素晴らしかったですね。ただ広くて…時間が足りず周り切れないのが悔やまれます。

ーお二人はもともと民芸やクラフトがお好きだったんですか?

横溝:フェニカ(デザインとクラフトの橋渡しをテーマにしたビームスのレーベル)の存在が大きいですね。最初は器から入って。洋服以外のものに興味を持たせてくれたのはフェニカがあったからですね。家の物とか服とかもそうですけど、引越したり、年齢と共に少しづつ変化がありますよね。でも雑誌の中のお家ってすごく整っているんですけど、そういうのって一気に揃えることは難しいじゃないですか。結婚したてはまだ二十代だったんでお金もないし、いつかは大きなテーブルとかいつかは大きな家具を、というのを思っても一個ずつ重ねていくしか出来ないから、はじめはこのテーブルを買おうとかこの椅子を一脚買おうとかだんだん変化してきて、ようやく今に至ってますが、いつも完成はしてないと思ってるんですよね。あとここに引越して来てからも変わってますね。ファッション以外のことに興味や趣味を持っている人たちとの出会いがあって、そういった人たちに会うと心が豊かになりますね。

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ー家って住む人を象徴するって言いますよね。お二人のご自宅は、メキシコ、北欧、日本のモノがバランス良くミックスされていて、これはセンスの賜物に尽きると思います。モノ選びの基準はありますか?

須藤:食器だけは私が選んでます。
横溝:それ以外の家にあるものはほとんど僕が買っていますね。購入は直感ありきです。あとは普段なんとなく見てる洋書の中に出てくるものが、それが何なのかわからずに見ていたりするんですけど、そういったものに偶然に出会ったりすると感動して買ってしまいますね。実感を伴うというか。そこから後々調べるパターンが多いですね。とにかくモノが好きですね。

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ー例えばお二人でも未だに掘りさげていないモノとか手に入れてないものとかあると思うのですが、そういうまだ見ぬものを求めているのはありますか?

須藤:心の片隅には置いてますね。若い頃みたいにそれだけを目的にいろんな店を回ってということはないですけども、出会ってしまったら、欲しかった気持ちをひきだしから出すというか思い出す感じですね。
横溝:あとは出会うタイミングですよね。欲しいんだったらお金だして絶対に買うというのではなくて、取捨選択して時には手放したりしつつ、時間の経過と共に気持ちを変わってきますので。
須藤:あとは身の丈を大事にするというか。いつか手にしたいというものは我慢というか、心の片隅に置いてある感じですね。現状でも一見無駄なものがありますが、すぐに手放すのはなく、そこに宿っている思い出にも寄り添っていけたらいいなと思います。

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ー話は変わりますが、ご夫婦で同じ会社に勤めて、日頃から気をつけていることはありますか?

須藤:まったく気にかけないことを気にかけていますね。 横溝:もうずっと20年くらい一緒なので。弊社では夫婦とやカップルというのは別の部署に配属されるのですが、なぜか僕たちは同じところで。店舗で勤務していた時も同じでしたから。

ー例えばひとりのお客さまをご夫妻で接客するなんてことも?

横溝:ありましたね(笑)。家族の顧客さんもいましたね。旦那さんは僕が担当で、奥様やお嬢さんは須藤が担当で。不思議とセットになってしまっているんでしょうね(笑)。僕らは周りには気を遣わせたくないし、気も遣わないですね。あと、朝は意図的に別に出勤するくらいですね。自転車で行ったり、電車の路線を変えてみたり。メリハリをつけてますね。
須藤:同じ空間にはいるけども、現在会社ではそんなに接点はないですね。あとは二人とも出張があるので、本当は犬や猫が飼いたかったんだけど、亀を育てて楽しんでいますね。二人とも子どもの頃から爬虫類が好きだったのもあるし、二、三日お留守番もできるし、亀はいいですよ。そういう大枠のところでは似てるんですけど、細かいところはちょっとずつ違いますね。北海道旅行でもそれぞれみたい場所、食べたい物なんかはちょっとずつ違って、ちょっとずつ似てるというか。だからもめずにいられるんでしょうね。自然を見ることも民族的なものを見るのも好き、お酒を飲むのも好き、だけど喧嘩もありますね(笑)。

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ー理想的な関係を構築されているとつくづく思います。最後に「WALL DECOR」を今後使うとしたら、どのように活用してみたいですか?

横溝:僕は昔、イベントで写真を飾らなくてはならなかったんですが、その時にこのサービスを知ってたらよかったなと思いますね。当時はかなり雑な写真パネルになってしまったんです。調べたんですけど、ファブリック・パネルみたいな手法しかないと言われてしまって。それに比べるとこれは画期的ですよね。写真を大事にしている取引先やブランドさんもあるので、そういうときのエキシビションでは絶対に使えるなと思いますね。

ーやはり横溝さんはビジュアルマーチャンダイジングの感覚が染みこんでらっしゃるんですね。

横溝:そうですね。実はオフィスで今回のパネルを飾る方法をシュミレーションもしてました(笑)。縦縦横横で、A2だから4枚並べられるかな…とか。実際見ると考えてたより大きな印象です。A3の紙を二枚貼って考えたんですけどね。そういうの、ビジュアル化させて物事を進めていくのは性分に合っているし、久しぶりに楽しかったですね。
須藤:壁が多い家なので、絵や写真を飾りたいなとは思っていたんですけど、実はここに出ていないポスターなんかも多いんですよ。いつか飾ろうかな、なんて置きっ放しになっているものもあったのですが、これを機に飾ろうかなと思いましたね。
横溝:僕はもっと壁に飾りたいんですけどね。
須藤:そう、最初はね。壁を埋めてしまったら箸休め的な場所がなくなるから、何も無いところも必要かなとも思ったんですけど。でも、飾る場所を変えたり、飾るものを変えたりするのは気分転換にもなるなと思いました。ポスターだと枠とかを気にしないといけないですが、「WALL DECOR」はプロダクトとしても良いですし、正直割安だと思います。写真がパキっとこんなに美しく表現できるのは強みですね。

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ー写真というのは平滑性が大事なので、このパネルは裏側にプラスチックのパネルを貼って裏打ちしているんです。このサービスの特徴でもあります。

横溝:そうなんですね。だから平滑でキレイな仕上がりなんですね。あと、普通の額装と違ってガラスやアクリルがない分、反射がないのもいいですね。
須藤:地震のときにガラスの額が割れてしまって大変なことになったので、割れないというのは助かります。
横溝:あとはこういったハッキリしたものがなかったので、インテリアも締まる感じがしますね。

Profile

Prof-kazumi-hirai

横溝賢史(BEAMS MEN'S CASUAL/B印YOSHIDA LABEL MANAGER)
兵庫県出身。
1998年BEAMSに入社。
店舗スタッフを経験後、<BEAMS >のビジュアルマーチャンダイザーとして店舗の内装やディスプレイに携わった後、現在は、B印YOSHIDAのレーベル運営を担当。商品の企画からバイイング、引き続き得意の VMDも行なっている。


須藤由美(BEAMS WOMEN’S CASUAL/maturely Director)
大阪府出身。
1998年BEAMSに入社。
店舗スタッフを経験後、2013年から2018年まで<BEAMS BOY>のディレクターを経験。現在は、ウィメンズカジュアル部門の統括ディレクターをする傍ら、BEAMSのハウスブランド<maturely>のディレクターも兼任。商品の企画からバイイングも担当し、世界各国を飛び回る忙しい日々。



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B印 YOSHIDA Official Site https://www.beams.co.jp/bjirushi/
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