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「WALL DECOR journal」Vol.8は、2拠点生活で日頃から山や海を身近に感じて暮らしを綴っているKIKIさんにお話を聞きました。

2018年3月 取材・文:BAGN Inc 撮影:藤堂正寛 

ー今回選ばれた2つの写真をどのように飾ろうと考えていますか?

それぞれ桜と雪の時季の写真なので、季節にあわせて飾るのが良いかなと思っています。2点を上下に並べてというのもありかな。気軽に立てかけて飾っておくのもいいですね。 普段は玄関先とかに掛けることが多いです。

 

二俣公一Large

和室におかれた方は初めてです。壁に掛けなくても添わして置いて、立てかけておくのもすごく素敵ですね。実はすでに「WALLDECOR」を利用いただいていたと伺っています。

昨年末に群馬県の太田市美術館・図書館で展覧会をした時に、準備の時間があまりなかったこともあり、プリントと額装を一緒にできるサービスを探しました。それで偶然にも「WALL DECOR」を見つけて、「ギャラリー」というシリーズを使って 何点か作品をつくり、展示しました。サイトを見ると、これまでのゲストも知っている方々ばかりだったので、今回お話をいただき嬉しかったです。改めてもう一度サイトを見たときに、新しい「キャンバス」というものが出ていたので、いいなぁと思い、注文してみました。

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「キャンバス」のサービスは1月にスタートしました。実はこれ、今オーダーが1位になりそうな人気もありまして、やっぱり質感が写真のプリントよりも部屋に飾りやすいのかなというお客様の反応をもっての印象があります。

それはあるかもしれない。額装は毎回どんなふうにしようかなと思うんです。わたしの生活圏で便利なのは「世界堂」さんなどで、値段も割と手頃で扱いやすい額が多く、よく使っています。「WALL DECOR」も選択肢が多いからいいですね。展示会に向けたものを探している時は、作品用にどれにしようと迷いながらも、自分の家に飾るならこれがいいなぁとか、これ使って作ってみたいなぁと、いろいろとアイディアが広がり、楽しかったです。

ー季節の異なる2つの写真でも、並べてみると何かストーリーが続いているような感じがありますね。

鎌倉に越してきてからは9年が経ちます。鎌倉の山や木々には、里山らしさがあります。写真に写したような桜は大きな山でみかけることがなくて、そういうところに鎌倉らしさが実はあるのではと思っています。 山に出かけるときはたいていカメラを持っていきます。鎌倉の山もずいぶん撮影していて、いずれまとめて発表したいと考えています。鎌倉の町や寺社の写真はよく見かけるけど、山だけの写真は意外とありそうでない。この写真のように、桜が咲いている時季や、雪が降ったときは、いつ山に行こうかなとそわそわしちゃって。昨シーズン雪が降ったときは、翌朝には溶けてしまいそうだったので、降っている真っ只中に、カメラを持って山に行きました。

これはどこから撮られたものですか?少し上から覗いているような、高台の感じがします。

鎌倉から逗子に向かう電車が、町の境の名越というところでトンネルに入るのです。ちょうどその脇から山に入るトレイルがあって。その道は線路のずっと上の方を通っていて、だから見下ろすアングルで写真も撮ることができます。桜が散る時季には、風が吹くと線路の方に花吹雪が舞い降りて、それはきれい。さらにそのトレイルの奥に進むと、山を削って作られた「切通し」という細い道があったり、昔の人のお墓ともいわれる「やぐら」という横穴があったりと、気持ちのいいハイキングコースがずっと続いています。

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ー山を歩くだけでなくトレイルランもするということですが、走りながら何かしらの風景を捉えた中で、今度ここで撮影しようとかそういうことも考えていたりするんですか?

あまりないですね。走るのはそんなに得意ではなくて、基本山は歩いているほうが楽しいなって思っています。鎌倉に越してきたのには、自然が近くて山にも入りやすいっていのうが理由のひとつ。それまで普通のランニングとしてアスファルトの舗装道を走っていたのですけど、山を走るようになったら、普段気にしていない、意識していなかった風景に目が止まるようになりました。見たことのない風景にたくさん出会うと、今度はカメラを持って行こうという気持ちになります。トレイルの入り口の土手にいろいろと植えている人がいて、それが花を咲かせるとすごく綺麗なんです。紫陽花とか小手毬とか椿とか。季節ごとに楽しませてくれるのです。手入れをしているおじさんとおばさんがその脇のベンチに腰掛けておしゃべりしていたり。ハヤトウリがたくさん実をつける時季には、これ持って行きなさい ! と、うれしい反面、走っていると困ってしまうことも。そんなふうに道中がいろいろと面白くて。

img-Kaori Mochida

ーKIKIさんの2拠点生活に憧れます。東京ともうひとつは山と海が近いところで。新宿から1時間弱くらいですもんね。

移動がたまにだといいんですけど(笑)。2拠点生活になってからは、平日は東京、週末は鎌倉という生活になりました。あとは夏やお正月休みのころは、鎌倉らしい楽しみ方がたくさんあるので、滞在時間は長くなります。そんなに東京から離れているわけではないのに、とにかく自然が身近にあって、山の風景だけでなくて、食べ物にもすごく季節感がでます。釣りをする友人も多くて、彼らの話を聞いていると、季節ごとに釣れる魚が変わっていく。当たり前のことなのですけど、はじめはそんなことすら新鮮でした。春になると、ご近所さんからとれたての筍や梅、ワカメをいただいたりすることもあります。あとは保存食もよく作るようになりました。梅干しとかアンチョビとか。時季になると魚屋やスーパーで小さなイワシが山盛り、安値で売っているのです。さばくのが大変なんですけど、塩漬けにしてオイルに浸けて寝かせてアンチョビができます。そういうことも鎌倉の友人に教えてもらいました。

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ーKIKIさんには富士フィルムで2011年「Photo is Power」のときにも登場いただきましたよね。その時には海外の教会の写真をあげさせていただきました。

建築はプライベートワークとして追い続けています。以前より旅の数は減っているけれど年に1〜2回くらいは山や教会、建築を目的に国内外にでかけています。大学では建築学科で学び、学生時代にモデルの仕事をはじめ、その後モデルを続けながら数年間、空間プロデュースの事務所でも働いていました。建築や空間に対しては、今でも何かしらのかたちで関わっていると認識しています。

ーカメラで写真を撮るという行為がその頃から自然と取り入れられるようになっていたんですよね?

はじめのうちは学生時代に学ぶために建築を見に行って、記録として撮っていました。モデルの仕事を始めてからは、その延長線上で建築を表現する、人に伝えるということができると気づきました。 写真と同じように、その頃文章も書き出しました。それが今日まで続いています。建築に限らず、写真を撮って見せよう!と積極的には思っていなくて、日常の延長線上でいろいろできたらいいなと思っています。鎌倉の山であれば、せっかく鎌倉に住んでいるし、興味深い風景がたくさんあるので記録しています。

ー家にいる時間のほうがすきだったりしますか?

それはあります。ただそう言えるのは、これまでいろいろな場所に旅する機会があったからだと思います。それに、これからも自分の気持ちにあわせて旅にでたらいいかなと。身近なところでもいいところはいっぱいありますよね。鎌倉では自分の家の庭の手入れをしたり、何か眺めているだけでも気持ちが落ち着きます。1日家にいても、損したという気持ちは全く起こらなくて。むしろ今日1日家で過ごせてよかったなぁと思います。

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ーこれだけ採光があれば、日の移り変わりとかも感じれますしね。

今は夫とふたりで暮らしていますが、鎌倉の家はもともとわたしが一人で住んでいた家なので、わたしの好みのものが多いです。東京の家は夫と一緒に考えてリフォームしたので、二人の場所であり、少し夫色が強い場所。たとえば仕事柄、本の数がとても多い。互いにとって資料にもなるので、原稿を書くなどの仕事をするなら東京の家。鎌倉では、自然と近い環境なのでのんびり過ごしたい。とはいえ、写真作品やネガは鎌倉の家で管理しているので、今回このお話をいただいたときに写真にまつわる内容であれば、鎌倉の方がしっくりくるので、こちらでお受けしました。作品が展覧会から戻って来てから、家に飾ることもあるんです。基本的に自分の写真は飾りたいとは思わないのですけど、どんなふうに見えるのかな、これここに掛けたらあいそうだなと、一時的に置いてみます。鎌倉に暮らして9年目。実家を出てから今までで一番長く暮らしている家になりました。それとこの場所が好きな理由のひとつには、ご近所づきあいがあり、近くに住む友人と家の行き来があることも楽しいです。息がつまるようなコミュニティではなく、いい具合にあります。

img-Ryo Takahashi

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ー一番最初に写真を撮ることに目覚めたというか、きっかけみたいなものってあります?

写真を撮りはじめたのは、建築を学んでいた学生時代に、記録という位置づけでの撮影でした。楽しんで写真を撮るようになったのは、山に行くようになったときからです。その頃使っていたカメラはハーフカメラでした。ハーフカメラは36枚撮りのフィルムなら、1枚あたりに縦構図で2枚。倍の72枚を撮ることができます。フィルム交換にあまり時間をかけたくない山では、たくさん撮れるのが好都合でした。また縦構図で撮れるということも、自分が山で見て、撮りたい!と思った景色を、カメラを回転させずに瞬時に構えて縦構図で収めた写真とのイメージの誤差がほとんどないことが新鮮でした。写真に目覚めたといったらその頃、2006年になります。




ー何か撮影をされる際に、自然からのインスピレーションとかエネルギーをもらうことが多いのですか?

多いですね。写真とはまた別かもしれないですけど、山といった自然の中に行くことは、不便なことが多い分、それが楽しい。反対に言うならば、不便な世界に行くことによって、日常のいろんなありがたみに気づきました。写真に関して言うと、あえて何かを撮ろうと身構えているわけではなくて、素直に山で出合って気になったものを撮る。山の風景は太陽が傾いていくなかで刻々と変化していくので、あとで、と思わないで、すぐに撮ることも大切です。デジタルカメラも使いますが、撮った後に見直してしまう時間がどうしてもでてきてしまって、その時間をもったいなくも思います。フィルムカメラならシャッターを押してそれでおしまい。山を降りてから、プリントするなりして、写真になってからあの時これを撮りたかったんだなぁと気づくのが楽しい。

 

img-Ryo Takahashi

ー山の不便さとはなんですか?

デジタルカメラでいえば充電できる電源がないとか。天候の変化も大きいです。荒れて来たら無理に出歩かない。雨でもひどければ山に行くこと自体をやめたりとか、山小屋に次の目的地に向かわずにとどまったり。だけど日常であれば雨がひどくてもタクシーに乗って移動してしまえばいいと、無理しているという感覚を押し込めて行動してしまう。そして、それが当たり前になってしまいます。そうやって無意識に抗っていると、どこかで自分の行動と思考のズレができてきてしまうのかなと。山に行くことで、そのようなことにも気づけました。自然の脅威を知っているので、自然の変化に敏感になる。山ではそんなことも楽しみのひとつになります。たとえば山小屋は快適に過ごせるところが多いですけど、テントで寝泊まりするときは、内と外が布1〜2枚で遮られているだけなので、風の音や向き、雨が降ってきたり止んだりという気配には敏感になります。あとは使える燃料が限られているので、節約せざる得ないのですが、限られたものでこれだけ調理したり暖をとったりできるのだと気付かされます。お水も貴重なので、大切に使ったり、工夫して使ったり。普段家では水道の蛇口を捻るといくらでも使えるけれど、そのことがとても恵まれているだことなんだと意識するようにもなりました。

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ー日常への感謝の念が湧いてくるって感じですよね。山が気づきを与えてくれる。

山に限らず、海でも同じだと思います。鎌倉には両方あるのがいい。夏だけでなく、夕焼けが綺麗そうだねと、自転車を走らせて海岸まで出てみたり。夏は水着をワンピースの中に着て、海に行って、浸かってクールダウンして、すぐ戻って来ることも。本を持って出かけて砂浜に寝転がって読むことも好きな時間の過ごし方です。

ー写真にはこれから夏が加わっていくのですね。

夏の鎌倉の山は緑の勢いがすごいです。夕暮れや朝方にヒグラシが家にいても聞こえてくるけど、山はうっそうとして薄暗いから、昼間から鳴いています。

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ー山に入って気になる音って他にもありますか?

風の音はよく気にしています。風は天候の変化と結びつくので、森の中にいても上の方で葉擦れの音がしてきたら、風が強くなってくる、または天気が崩れてくるかもしれないなどの推測ができます。ずっと降っていた雨が弱まってきて、鳥がさえずりだすと雨が上がるなとか。反対に天気がそんなに悪くもないのに、森の中で鳥のさえずりが聞こえないと、なぜ鳴いていないのだろうと気になります。言葉にせずとも、頭の隅で意識しながら歩いています。本来は日常でも意識していた方が良いのだろうなと思うようにもなりました。例えば公道の青信号や歩道は安全だと信頼しすぎるのもよくないかなと。

ー過信しすぎている。自分をまもる術を失ってきていますよね。

常に安全が用意されているという感覚に犯されると、本来人間に備わっているはずの危機管理能力の出番がない。わたし自身も気づいていないところでたくさん使えていないことがあると思うし、管理能力が完璧であればどんな事故にも巻き込まれないという約束はない。でも安全な日常に慣れすぎて、その能力を無くしてしまいたくはないです。

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ーカメラや山以外に、打ち込んでいるものはありますか?

このごろは読書が一段と楽しくなってきました。書評の仕事を何本か持っていることも関係していますが、必然的に読書量が増えていますし、普段読まなかったジャンルにも手を伸ばすこともあります。

ー書評はインプットとアウトプットを一緒にするってことだから、本当に難しいと思うんです。

どうなんでしょうか。書くことはあまり得意ではないし、読書量が増えているといっても上には上がいるわけで、本を一冊読んで書き始めるまでには時間がかかります。もっと面白い本があるかもしれないと、ギリギリまで探してしまうことも。あと旅の行き来の時間や、滞在中で本を読むことも好きです。移動中はもちろん、山や旅先でも意外とぽっかり空く時間があるので、そんな時に。でも、山に行くときには山の本を、北欧に行く時には、北欧が舞台の本を持っていくことはないです。あえて関係性のない本を読んで、さらに本の世界に入っていき、そのパラレルワールドを楽しんでいます。本の楽しさって、世界と時間をいったりきたり、いろんな場所にも行き来できることだと思っています。

ー本も山も別の世界に導いてくれるところは同じですね。

そうですね。日常もすごく大切だけども、それ以外の非日常的な時間も何かより味わえる。どれも同じくらい大切な時間です。

Profile

Prof-kazumi-hirai

KIKI(キキ)

東京都出身。武蔵野美術大学造形学部建築学科卒。雑誌をはじめ広告、テレビ、映画などで活躍。
エッセイなどの執筆も手掛け、旅や登山をテーマにしたフォトエッセイ『美しい山を旅して』(平凡社)など多数の著書がある。
カメラブランドの会報誌に撮りおろしの写真とエッセイを執筆、文芸誌にて書評の連載中。
近年では自身の写真展を開催し、芸術祭に作家・審査員として参加するなど多方面で活動している。
日本テレビ「ゆっくり私時間~my weekend house~」にレギュラー出演中。