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vol31

みうらじゅん

シンガーソングライター

この写真が撮れたことを喜びとしたい。

 

「マイブーム」 や 「ゆるキャラ」 の生みの親として知られ、イラストやエッセイ、脚本など幅広いジャンルで活躍するみうらじゅんさん。長年作り続けているスクラップ本や写真を用いたトークイベントなど、実は写真との関わりは深く、ユニークの編集的視点で多くの作品を制作してきました。新たなジャンルを生み出し続ける、みうらさんの独自の写真観に迫ります。

2018/9 取材・文:橋口弘(BAGN Inc.) 撮影:藤堂正寛

ー“マイブーム”の祖、みうらさんと写真との出会いは?


小学校四年のクリスマスに、当時人気だったフィルムカメラを買ってもらってね。フィルムがハーフサイズ仕様だったので、普通の2倍撮れるやつ。「もう土門拳*になろう!」と思って(笑)。仏像好きが高じて、仏像写真も撮りたくなって。昔はカメラ持った小学四年生なんてあまりいなかったから、お寺の方も油断しちゃってるというかね。今みたいに撮影禁止とか厳しく言われてなかったこともあって、お寺でも仏像に間近なところまで行けたし、触れるギリギリの状態で安置してあったから。それを土門拳さんのように、甲冑の端や流れる衣を接写してたもんだから、どんどんクラスの友達と話が合わなくなって(笑)。



それ以来、ずっとカバンにカメラを入れて、色んなとこで写真を撮ってた。フィルムだとDPE店(撮影済みフィルムを現像所に取り次ぐ店舗)に出すんだけど、現像してもらえない写真もありましたから(笑)。受取確認のとき、店員さんが一番上の写真を見せるじゃないですか。変な写真だと気まずいから、一時期から雲の写真を最初と最後に撮るようにしてて。そしたら、雲の写真だけものすごい数になっちゃって。なんだかロマンチックな人みたいに見られるんだけど、違うんだ。DPE屋さんを誤魔化すために撮ってきただけだから(笑)

土門拳*
昭和を代表する写真家。
寺院仏像など日本の伝統文化を独特の視点で切り取った作品で知られる。

 

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ーコレクションの裏には多大な苦労がおありでしたね。撮り貯める意義とは、何でしょうか?

フィルムからデジタルに移行しても、ずっと同じもんを撮っていますね。以前はアレを撮り貯めていたけど今はやってないってことって、無いんですよ。発見し次第、捕獲してるんですけどね。収集というよりは、“捕獲”に近いです! だから「アウトドア般若心経*」も、『ポケモン GO』が影響を受けたんじゃないかって思うんだけど(笑)。店看板でやたら目につく「SINCE*」もそうなんだけど、いつどこに出現するか分からないですからね。「SINCE」を“捕獲”している時も、ゲット感覚はあったんですよね。

 




「アウトドア般若心経」は、家でもやれないことでもないんだけど、あえてアウトドアってとこに修行感が出るわけで。「むやみやたらに街を歩き回る」っていう。楽しみじゃないんですね、あくまで修行だから(笑)。「アウトドア般若心経」も、そもそも“写経(写真経)”って呼んでましたし。
まあ、収集することは起爆剤だから。100枚あるより10,000枚あるほうがグッときますよ。質より量なんですね。量がないとダメだから。データよりは、フィルムが積みあがっている様子が面白いわけで。写真もできる限り紙焼きにするようにしてます。


アウトドア般若心経*
278文字からなる「般若心経」を、経文の文字のある市街の看板等の文字を撮影し、経文の完成を目指す行い。


SINCE*
街中の看板でよく見かける「創業〜年」「開業〜年」と同義の英語。

 

みうらじゅんLarge

ー凌駕する量になったあとは、みうらさんの編集的視点が存分に生かされる素材になるわけですが。異なるもの同士を橋渡しさせる文脈という点では、アートと似ていますか?

アートに見えたら、ネタがつまらなく見えるんです。もっと下世話なことじゃないと見た人は喜ばないんじゃないかと思ってます。俺がやってることは、自己満足でやってるんじゃないから。小さい頃から趣味ないし。面白いことを広めたい紹介したい、要するに「一人電通」活動にとってアートは大敵です。全然関係ない写真を合体させて、<A+B=C>にすることが自分の仕事なんで。無駄な修行も笑いになればそれで良いんです。

ー他人の喜ばせるため、オリジナル楽曲も配っていたとか。

そうですね、中学生時代から始めて400曲くらい作りましたよ。「プロより多いって気持ち悪い」って、高校の友達に言われちゃって(笑)。当時は当然ネットもないわけで、配信することができないから、カセットをダビングして、聴きたくもない友達に送りつける(笑)。カセットのことを、『アルバム』って呼んでいましたし。高3までで、全16もの『アルバム』ができたんですけど。でもそのやり口って今のネット配信と同じことですから(笑)。プロになって、それを足がかりになんて全然思っていなかったです。だってもう、「プロ」の気持ちですから。自費出版の編集長もやってたもんで、締切で忙しかったんです(笑)。小学校のときからずっと締切に追われ、一生自由研究家です。

みうらじゅん

img-Miura

ー一生自由研究のなか、アイデアの閃きってどこから生まれていますか?

ずっとやめてないから、いつかそれらが合体する時が来るんじゃないですかね。これまで収集したものは倉庫に保管してて、「ワイン工場」と呼んでいますし(笑)。そこに寝かしてるんです。解禁の日もいずれ来るでしょう。ボジョレーヌーヴォーみたいにね(笑)。「アレ、もうないんですか」ってよく聞かれますけど、「寝かして」いるんです! 何年ものって言われるモノも残っているんで(笑)。難しいのはキープオンなんです。どこでも唾吐いちゃう「ロッケンロール」って一過性ならできるんですけど、キープオンはなかなかできないですよ。いつでも唾がでるように絶えず訓練しなきゃいけないんです。編集の妙というか軸が変わらないまま、考えが枝分かれした結果、アイデアが生まれてるんだと思います。

みうらじゅんLarge
みうらじゅんLarge

ーその軸となる根幹は、何だと思いますか?

「怪獣」ですね。恐竜が苦手なんですよ。その理由は、昔“居た”からです。「怪獣」は、確実に居ないでしょ。存在していないものが存在しているように見えているだけですから。小学校の時から「バラゴン*のなかには中島春雄さんが入ってる」とか知ってたんですけど、入っているのを理解したうえで、入っていないフリをして見てたんですよ。それってもう般若心経の「空(くう)」と同義でしょ。そもそも無いものが在るように見えてるってことに興味があるんです。 「アウトドア般若心経」の誕生のきっかけは、般若心経に使われてる漢字が、街に溢れてることに気がついたからです。それは、駐車場の「空 あり」って文字が始まりで(笑)。ご丁寧に友達は、「あき あり」って読むんですよって教えてくれたけど、どうも俺には仏教の真髄「くう(空)」としか思えなくて。「空」って、無いってことですから。それが「ある」って書いてあるんだもん。 4年半くらいかかって日本中から般若心経の文字を集めたけど、それを写真に焼いて、事務所の床に置いて並べてみたんですよ。「無煙焼肉」の「無」なのに、不思議なことに般若心経に出てくる「無」のように見えてくる。並べてみると般若心経に一応見えるけど、バラけると違うものになる。一瞬、そう錯覚してしまう状態こそ「空」じゃないですか。だから、存在しないのに存在すると思い込んで、怪獣のなかに人が入っているのに入っていないと思ってカッコいいって言ってるって、なんかグッとくるでしょ。 写真も突き詰めれば粒子の集まりじゃないですか。画素っつうんですか? 男が見たい女性のおっぱいも、いわば人間の身体だって、言ってしまえば細胞が集まっているだけですから。だから、人間って無いものを在るように見たくてしょうがないんですよね。だから、それでできるだけ楽しく余生を楽しむためのツールのひとつが写真って感じがするんですよね。写真のすごいところは、実は無いものが写ってるってことが面白い(笑)。

バラゴン*
東宝製作の特撮怪獣映画に登場する怪獣。

img-Kaori Mochida

SMOKE



ー写真とは人生哲学だったんですね。みうらさんといえば、その写真を「スクラップ」することでも有名です。

長年「エロスクラップ」をやってますけど、これも諸行無常なところがあって、すべてのものはカタチが変わって、最後に無くなるんですよ。「エロスクラップ」も36年間で560巻くらい作ったけど、初期の1巻目とか見たら、ピッチピチしたその女性は(そのままの姿形で)もう居ないってことに気がついて、萎えるんですよね。エロは永遠には突き進むけど、終わるとこには向かわない。「無」から生まれて、「無」に戻る人生のプロセスの、一番良いとこを止めているのが写真なんじゃないですか? 貴族の特権階級で楽しみだったヌード画が廃れたのは、写真のせいだと言います。写真は、記録のためじゃなくてそもそもエロで進化したんじゃないですかね。どうにかして目に焼き付けたいという男の煩悩がそうさせた。男ってモノ残すの好きじゃないですか。 だから人間は生きた証が欲しいんですよ。それが写真なんです。人間は無いところから生まれて、無いところに向かうのに、どうにか「在った」ということにしておきたい。という意味では、カメラは煩悩の機械ということになります。

エロスクラップ

ーその煩悩の機械で写した、みうらさんの一枚とは?

日本全国を2周半くらい回った、安齋肇さんとやってる「勝手に観光協会*」での旅の最中、北海道の小樽だと思います。いつも同行してくれているカメラマンが移動中、「あっ!」って気づいて車を止めて撮ったやつなんですよ。 画面に「みうら」と「じゅん」が入り込んでいることはなかなかないからね(笑)。しかも平仮名でね。しかも俺のセントネームが「サンポット」だったってことが分かった。「みうら=サンポット=じゅん」だったんだよ俺(笑)。ほかの人からしたらどーでも良い写真じゃないですか。俺にしか意味のない写真。そこにこそ意味がある。カメラマンもこんなもん撮るために写真家になったんじゃないだろうに(笑)

勝手に観光協会*
みうらじゅん&安齋肇により1997年結成。頼まれもしないのに、勝手に各地を視察し、勝手に観光ポスターを制作し、勝手にご当地マスコットを考案し、勝手にご当地ソングを作詞・作曲・旅館録音(リョカ録)し続けている大きなお世話ユニット。

みうらじゅん イメージ



ーみうらさんの写真編集の妙にもっと触れたい人はどうしたら良いですか?

実は俺、写真集も出してますから。写真集さえ出しちゃえばプロってことでしょ?(笑) テーマごとに区切って編集して、全然違う所で撮ったオヤジたちを「兄弟」って分けてみたりさ。恵比寿の東京都写真美術館の展覧会にも出展したことがありますから。もうそろそろ木村伊兵衛賞を獲っても良いじゃないかなんて思ってますけどね(笑)。しかも、写真集の帯の篠山紀信さんの名前が、俺の名前より大きいところがミソです(笑)。


写真集情報:『アイノカテゴリー』 みうらじゅん著 ぴあ(2005年)

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Profile

img-みうらじゅん

みうらじゅん

1958年、京都府生まれ。イラストレーターなど。武蔵野美術大学在学中に『月刊漫画ガロ』で漫画家デビュー。1982年ちばてつや賞受賞。1997年「マイブーム」で新語・流行語大賞受賞。2005年日本映画批評家大賞功労賞受賞。2018年仏教伝道文化賞 沼田奨励賞受賞。著書に『アイデン&ティティ』『色即ぜねれいしょん』『キャラ立ち民俗学』『人生エロエロ』『「ない」仕事の作り方』など、多数。 みうらじゅんOFFICIAL SITE  http://miurajun.net/