奈良美智 メイン

vol31

奈良美智

シンガーソングライター

この写真が撮れたことを喜びとしたい。

 



見つめ返すような印象的な絵画やさまざまな素材に生命を吹き込むような彫刻
作品で、国内外で高い評価を得る奈良美智さん。 近年は、多様な場所や時間
、関係性を収めた写真作品を展示するなど、新たな表現メディアを開拓してい
ます。ジャンルを横断する奈良さんならではの、写真との関わりや役割とは
ーーほかのメディア同様、自身の内面を投影させた作品群は、何を紡いでいる
のでしょうか。

2018/7/4 取材・文:橋口弘(BAGN Inc.) 撮影:藤堂正寛

ー2018年8月10日(金)までタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムで開催中の写真展「Sixteen springs and sixteen summers gone―Take your time, it won’t be long now」。2014年から約5年かけて撮影された写真群から約200点を展示している会場でお話を伺いました。

 

img-Kaori Mochida

img-Kaori Mochida

ー 一見バラバラに見える作品群ですが、全体を通してシークエンス(連なり)で鑑賞していくと、奈良さんの独自の世界観が立ち上がってきます。それを意識して撮られていますか?


矛盾するようですが、実は全く意識していないんです。テーマや目的をあらかじめ設定して制作する写真家とは違って、たまたま訪れた場所に対する記録の集積になっています。断片化されたものを寄せ集めると、ひとつの世界が出来上がっている。テーマから派生する表現ではなく、自身の内面を構成して見せているような感覚があります。写真に雄弁に語らせるというよりは、写真を通じて、自分の歩みや視線の軌跡、被写体との距離感を伝えているのかもしれません。それが自分のやり方なんだと気がつきました。

奈良美智Large
奈良美智Large

奈良美智さんが選んだ一枚の写真

一枚の写真

ー今回選んで頂いた写真は、ロシアのサハリンでの旅で撮影したと伺っています。

かつてサハリンで炭鉱や漁業に携わった祖父の足跡を辿ることが当初の目的だったのですが、いつしか日本とサハリンという一回り大きな尺度で関係性が見え始め、歴史的な繋がりや少数民族を追った旅での一枚です。撮影現場は日本統治時代に栄浜と呼ばれた小さな集落(現・スタロドゥプスコエ)です。かつて宮沢賢治が、彼のよき理解者だった妹トシ子を病気で失くしたあとに訪れた所縁の地で、その当時の日本で最北端の駅があった場所でもあるんです。この女の子は、駅のあったと思われる付近で偶然にも朽ち果てた枕木らしいものを見つけたときに出会いました。
終戦後、サハリンにはロシア(旧ソビエト)のウクライナから人々が移民してきましたが、先住民である少数民族、ニヴフやウィルタも住み続けています。しかし樺太アイヌは日本国籍であったために故郷を去らねばなりませんでした。日露戦争以降は、国と国との間に挟まれて翻弄されてきた歴史があって、純粋にそこで先祖代々生まれ育ったロシア人というのはいないんですね。しかもその土地が、幼い頃の青森の実家周辺の風景とすごく似ていて。集落がぽつんぽつんと点在していて原っぱが広がっていて懐かしく感じました。こういう場所に行くと、あまり写真も撮らないし、もちろんスケッチもしません。そこに、ただ「居る」んですね。

 

 

奈良美智Large

ー新しい写真集や会場構成を含め、奈良さんの追体験をしているような感覚になりました。ご自身のなかで編集のルールはありますか?

作品発表の最終形態が物体としてのプリントではなく、会場が経験の場となることをなんとなく目標にしていますね。本展のインストールも割とすんなりいきました。最後まで粘って変わるほんの数パーセントよりも、大切なものや変わらないものがあるので、気にし過ぎないくらいが良いのかなって思います。日記を綴るようにシャッターを押してるから撮った理由も全部分かっているし。写真集もデザイナーに自由に編集してもらっていて、その方が「自分」が見えてくるし、新しい発見もあるから楽しいです。編集や組み方など手を加えても変わらない、普遍的なものを見せたいと思っています。

img-Kaori Mochida

ーあまり知られていませんが東日本大震災後に被災地で行ったワークショップは、ご自身の内面から出てくる表現とは一線を画す写真との関わりですね。

震災後の5月末に、作家ではなく先生やアドバイザー的な携わり方で、福島大学の学生と一緒に写真を使ったワークショップを行いました。被災者たちの話を聞いて回ったら、家族アルバムやビデオなどが津波で押し流れ、過去の自分を見返すものが何もないという哀しい状況で、それなら写真館をやろうと思いついたんです。いずれ何かに使おうと保管していた10匹以上の使い古しの鯉のぼりがスタジオにあったので、学生に手伝ってもらって子供たちと一緒にコスチュームを作り、それを着せて撮影会をしました。出来上がったプリントの裏に名前や模様などを子供に描かせて、彼らにプレゼントしました。被災者の会話のなかで、外に発信する写真ではなくて、記録媒体としての役割に改めて気づかされました。「こんなことあったな」という、彼らのために存在する写真を残したかったんです。この機会は勉強になったし、一人の人間としてボランティアをやっていると思いました。後ろめたさもないし、この取り組みを告知もしていないし、ある意味それも自己満足なんですけどね、なんだか。(笑)

img-Kaori Mochida

ーtwitterやInstagramなどのSNSもお使いですが、写真との関係はどう変わりましたか?

フィルムのときは、日々の暮らしで頭に留めることはあっても、シャッターを押して記録することは少なかったですが、デジタルが出てきてからは、日常を撮るようになりました。人間って頭のなかでもっと良い映像や画像って再生できるじゃないですか。そのためのひとつの「記録装置」としての用途ですね。ところが、だんだんデジタルの性能が上がるにつれ、脳内で再生されているものに近くなってきたので、写真作品を他人に見せても分かってもらえるかなと。デジタルの再現性が低いときは、写真を超えて訴えかけてくるものをいつも記録していたような気がしていて、その性能が上がった反面、少し疎かになってきた気もしています。簡単に撮れるので想像通りになってきた、逆に想像より撮れていないこともあります。つまり、良く撮ろうと変な欲が湧いてきているんですね。写真をたくさん並べることで、これは自分だなとかこれは自分ではないなってそういうのが分かるようになってきました。良し悪し両方ありますけど、写真がみんなのものになってきているのは良いことだと思いますね。

img-Kaori Mochida

奈良美智 イメージ

Profile

奈良美智(なら よしとも) 画家/彫刻家

青森県弘前市生まれ。愛知県立芸術大学大学院修士課程修了。1988年ドイツ、デュッセルドルフ芸術アカデミーに入学、卒業後もケルンを拠点に作品を制作。2000年に帰国、以後国内外の展覧会で発表を続ける。近年の主な個展に、「君や 僕に ちょっと似ている」横浜美術館、青森県立美術館、熊本市現代美術館を巡回(2012-2013年)、「Life is Only One: Yoshitomo Nara」Asia Society Hong Kong Center(2015年)、「奈良美智 for better or worse」豊田市美術館(2017年)など。創作の日々や旅を記録した写真作品は、写真集『the good, the bad, the average … and unique. 奈良美智写真集』(リトルモア刊、2003年)、『奈良美智写真帖 2003-2012』(講談社刊、2012年)などを通じて知られ、2017年には写真展「Will the Circle Be Unbroken」を代官山ヒルサイドプラザにて開催。

【展覧会情報】
六本木のタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムにて、写真展「Sixteen springs and sixteen summers gone―Take your time, it won’t be long now」 が開催中です。2014年から約5年間にわたり撮影された写真群より約200点を展示し、本展の開催にあわせ、展覧会カタログも販売。
<会期> 2018年8月10日(金) まで
<会場> タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム(東京都)
<時間> 11:00〜19:00 / 日月曜、祝祭日 休み
<URL> http://www.takaishiigallery.com/jp/archives/18518/

【展覧会カタログ詳細】

Prof-Kaori Mochida
奈良美智 『days 2014-2018: Sixteen springs and sixteen summers gone―Take your time, it won’t be long now』

タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム刊(2018年)
販売価格: ¥5,000-(税抜) ソフト・カバー、204頁、掲載図版180点、H19 x W19 cm
高橋しげみによるテキスト収録(英語・日本語)
詳細はギャラリーへお問合せ下さい。