Emiのコラム- vol.44
<後編>自分で自分を取り戻す方法って? 8歳上の写真家・中川正子さんに教わったこと。
「みつかる、私たち家族の“ちょうどいい”暮らし」をコンセプトにOURHOMEを運営する、Emiです。
「Emiちゃん、明日って時間ある? 一緒に近所の山を登ってみない?」
「え!? 行ってみたいです! ちょうど今日、岡山に泊まる予定だったので、ぜひ!」
前回の取材を終えほっとしていた時、突然の正子さんからのうれしいお誘い。
その波にすぐに飛び乗り、急遽、翌日もご一緒することになりました。
後編の今回は、正子さんのこれまでの生き方、写真家として全力で走っていたところから立ち止まって何を感じられたのか。ふたりで山を登り、風を感じながらじっくりお話しました。
がむしゃらに「成功」を目指していた20代
Emi
――私が正子さんと出会ったのは2年前。まだ30代でぐ~っと力が入っていて、もうちょっとゆるく肩の力を抜いてみたいなと思っていた時に、正子さんという存在に出会ったんです。
私は今40歳なんですけど、読者の方も同世代の方が多くて。だから、正子さんから年下の私たちに、何をしておいたほうがいいというのはないかもしれないけど、ちょっとお話を聞いてみたいなと。
正子さん
「Emiちゃんみたいなすてきな人にそんなふうに言ってもらえてうれしい。じゃあ、私が今までどんな感じだったのかを話すね。
私はEmiちゃんより8歳上で、時代がまだまだ頑張る方向にあって。父は団塊世代で超頑張り屋。そんな頑張りマインドと共に写真業界に入ったから、20代の頃は写真家として『トップ』を目指そう! みたいな気持ちがずっとあったの」
――へぇ~。
正子さん
「いわゆるがむしゃらで、なんでもかんでも来た仕事をやっていたかな。いい雑誌で仕事をする、その中でも前のほうのページで、表紙を飾る!とか、売れているアーティストのCDジャケットを撮るとか。成功の定義がなんとなくあって、ガンガンやっていた感じ」
――うんうん。
正子さん
「で、30歳過ぎにあるシンガーソングライターの女性とデビューから仕事をすることになって。3か月に1枚シングルを出し、CDアルバムもバンバン出し、どれもすごいヒットだったのね。そうすると、もう何が何だかわからない忙しさで。朝4時から仕事して、夜中の1時までやってっていうのを繰り返していたかな。
で、彼女は本当に対等に話せるような人でね。彼女と話しているうちに私も対等でいるような気分になっていたんだけど。ふと、彼女は自分の作品をバンバン生み出しているけど、私は…?と思って。そして自分の仕事を振り返ってみると、成功したいと思っていた20代の頃にやりたかったことって全部やっていて。じゃあ、私はこれからどこへ行くんだろう…?と思ったのが33歳ぐらいだったかな」
立ち止まるきっかけは、体に出たサイン
正子さん
「そして、彼女と最後に仕事をした時のこと。朝3時ぐらいに現場へ彼女と行ったんだけど、すごく気持ち悪くなっちゃって…。でも大事な撮影だし、気持ち悪いなんて言っていられないな…と思っていたのね。
そしたら彼女に『正子、働きすぎでしょ』『ちょっと休みや~』って言われて、そだね~なんて言って。で、東京帰ったら妊娠していることが発覚して」
――えぇ~!
正子さん
「その時は流産しちゃったんだけど、その時に流産したっていうのはサインみたいに思えて。『ちょっと1回止まんな』みたいな。そんなことでもなければ止まらなかったし、その時も結局あんまり止まらず、すぐ仕事に戻ったんだけど。そしたら半年ぐらい経った頃に、顔中に信じられないブツブツがめちゃくちゃできて! 抑えたものって、やり過ごしても結局体に出るんだよね」
――わかります。
正子さん
「神さまは結局わかっていて、もし内腿にブツブツが出たら隠せるから私は休まなかった。でも顔だと隠せないから、それでやっと休んで。人生の意味を考えるじゃないけど、本当の意味で立ち止まって。タイのチェンマイでリトリート、本当の自分に戻る時間をつくったの」
――チェンマイ、私も行ったことあります!
正子さん
「ほんと!? そこがすごく良くって! デジタルデトックスもできて、ただローフード食べて寝てるだけ。ごっそりいろんなものが本当に落ちた気がして。私は何のために生きてるんだろう? 何がしたいんだろう? 写真は何のために撮ってるんだろう?って、全部見返して。気づいたのは、すごーいって言われたいとか、他人に評価されたいっていうのがどこかにずっとあったなって。20代の頃はそこから離れられなかったけれど、そういうの、もう本当にいらないって思った。撮りたいものを撮って、もっと笑顔でいられるようにしようみたいな。
ずっとほぼ全て楽しいことをやっていて、嫌なことで忙しかったわけじゃないんだけど、楽しいからってとにかく詰め込み過ぎ。負荷が大き過ぎだったかな。そんなひどい目にあわない限り止まれなかった」
「自分で自分を取り戻す方法」を持っておく
Emi
――普通に暮らしていると、正子さんほどの忙しさはないかもしれないけど、体のサインっていうのは、たぶんみんなありますよね。小さな違和感とか、ちょっと無理して体に出たサインを見逃さずに向き合うっていうのが、30代後半から40代にかけては特に大事な部分ですよね。
正子さん
「そう思う。私は仕事だったけど、専業主婦の方でも超パーフェクトな方っているじゃない。そんな方は、あくまで想像でしかないけど、『完璧な家』じゃなきゃならないっていうプレッシャーに常にさらされているかもしれない。だからシチュエーションとしては似ているのかなって」
――そうですね。
正子さん
「だからほんと、自分で自分を取り戻せるのは大事だと思う」
――長年仕事や専業主婦をやってきた時に、ずっと自分の評価の軸だったものから思考を変えるってすごく大きなことですよね。体にサインは出ているけど、どうやって自分をゆるめたらいいのかがわからない方も多いのかなって。
正子さん
「私は、それは技術でもあるなと思っていて。停止するために電波の届かない海外に行くのはひとつのやり方だと思うのね。でも毎回そんなことはできないから、日常の中でできる何か、技術が必要だと思う。
アスリートの人がよく試合前にこの曲を聴くってあるじゃない? そういうテーマソングを持つとか、お風呂掃除をすると心が落ち着くっていう人もいるだろうし。やり方はそれぞれなんでもよくて、そういう自分を取り戻すための何かが、自分なりにあったらいいんだろうな~って」
――そうですね! 私も高校と大学と7年ぐらいダンスをやっていて。そこから仕事をして、子育てをして10年以上体を全く動かさなくなっていたんですけど…。2年前に高校の先輩から誘われてダンスを再開して、今は毎週1回踊ってるんです。
正子さん
「へぇ~! 最高だね!」
――もう、その時間は無になれる!
正子さん
「そうだよね~!!!」
――いつもとまったく別の頭を使う。体を動かす喜び、動かすことの意味がよくわかるようになって。みんなに同じことをおすすめしたいわけじゃないけど、自分で自分を取り戻す方法を何かひとつ知っておくと、お守りみたいな感じになるというか。
正子さん
「なるなる」
――ですよね! 私は今それがダンスなんです。
正子さん
「Emiちゃんがダンスに行っているように、私がどん詰まりになった時にまず走りはじめたのは、いちばん知っている体の動かし方が走ることだったから。自分が気持ち良ければきっとなんでもいいと思うんだよね。頭のことは頭で解決しないで、体で解決するっていうのは多くの人ができることだな~って思うよ」
――そうですね。自分が昔やっていたスポーツとか、ちょっと体を動かしてみるだけでも違うと思うし、正子さんが近所の山へ行くみたいに、近くに川が流れていたり、みなさん周りに何かありますよね。
今日の正子さんとのお話が、今ある世界がすべてと苦しく感じていらっしゃる方に、何かひとつでも自分で自分を取り戻す方法を見つけるきっかけになれたらいいなぁって思います。
正子さん、ありがとうございました!
●プロフィール
中川正子さん
写真家・フォトグラファー。自然な表情をとらえたポートレート、光る日々のスライス、美しいランドスケープが得意。写真展を定期的に行い、雑誌、広告 、アーティスト写真、書籍など多ジャンルで活動中。2011年3月に岡山に拠点を移す。
Instagramアカウント:@masakonakagawa