Emiのコラム- vol.43
<前編>「親が親バカじゃなくてどうするんだ」写真家の中川正子さんと、子育ての話。
「みつかる、私たち家族の“ちょうどいい”暮らし」をコンセプトにOURHOMEを運営する、Emiです。
写真家・フォトグラファーとして、そして文筆家としてもご活躍されている中川正子さん。Instagramで発信されているお写真や文章に、いつも憧れを感じていて、お会いしてお話をしてみたいとずっと思っていました。
今回お聞きしたのは、12歳の息子さんの子育てと、中川正子さん自身がどんなふうに育てられてきたのかについて。何度も何度も頷いた正子さんとのお話を、対談形式でお届けします。
圧倒的に信じてくれたことが支えになる
Emi
――今日はよろしくお願いします! 正子さんとお話ししたいことはたくさんあるんですが、今日は子育てについてのお話を聞きたいと思っています。
正子さんは息子さんに、「生まれてきてくれてありがとう」とか「まるごとすべて、ありのままでいいよ」みたいな声かけをされていると思うんですけど。
正子さん
「生まれてきてくれてありがとうって、大抵のお母さんは思っていると思うのね」
――思うけど、口に出して言う人ってすごく少ないと思うんですよ!
正子さん
「あ~~、そっかぁ」
――だから、正子さんご自身がご両親に育ててもらったことを、息子さんにそのままうつしていらっしゃるのかなって。なんか告白みたいなんですけど(笑)、私が正子さんにどうしてこんなに会いたかったかというと、愛をすごくストレートに表現するところが、格好いいのにかわいい! そこがすごく憧れなんです。息子さんや旦那さんへの眼差しや言葉、愛をストレートに表現されるところが、すごいなぁと思っていて。
正子さん
「そうね(笑)。振り返ると、うちの両親は私に好きとかはあまり口にすることはなかったけど、全肯定ぶりはすごかったなぁって」
――自分を肯定してくれているっていうのは、どういう時に感じるんですか?
正子さん
「日々の会話の端々になんだけど、それは過剰なのでは? って思うぐらい『さすがまーちゃん~!』っていう感じで。『ほんとすごいね、憧れちゃう~』とか、今でも私に言うのね(笑)。子どもの頃からずっとそうで」
――へぇ~!
正子さん
「うちの父はクールだから母みたいには言わないけど、私が何かを達成すると『ま、それは当然だな!』って。なんて言うんでしょうね、圧倒的に私を信じてくれているっていう感じがあって。何をやっても素晴らしい素晴らしい!って、両親2人で喜びあっている姿を見せてきてくれたので。でも思春期の時はちょっと嫌だったかな。小泉今日子さんと比べて、『正子の方がかわいい!』って言ったりして、ちょっとやめてよって、ほんとにやめてください!って感じだった(笑)」
――(笑)
「親が親バカじゃなくてどうするんだ」
正子さん
「うちの父が『親が親バカじゃなくてどうするんだ』って言っていて」
――親が親バカじゃなくてどうするんだ。
正子さん
「うん。それを子ども目線で聞くとね、今小6のうちの息子も、ほんともう大丈夫です!みたいな態度を私にとってくるけど(笑)。でも自分が20代になって親と離れて暮らすようになって、社会にもまれていろんなことがあるたんびに、ぺしゃんと倒れる直前に、それが私をぐっと支えてくれているような実感はあったね。
ぺしゃんってなっていった時に、たまたま母が電話をかけてきたりして『まーちゃん、どうしてるかな~と思って。まーちゃんに会いたいなぁ』とか言うだけなんですけど。その声とともに、あの全肯定ぶりが蘇ってきて。ママのこんなに大事な人間である私がこんなんじゃいけない、みたいな伝わり方をするというか」
――なるほど~!
正子さん
「親を落胆させたくないっていうのもあるし、ママがあれだけ信じてくれているんだから私ってそんなに悪くないだろうって。親の褒め言葉をまともに受け取っているわけではなくて、そういう存在がいてくれるありがたさっていうのは確実にあって。
子どものうちにそれを貯金しまくっておけば、ちょっとウザがられてもめげずにやっていけば、40代になってもまだ効くっていうのを体感しているので、自分の息子にも意識的にやろうと思ってる感じかな」
子どもの写真は、一瞬で撮る
Emi
――正子さんが息子さんの写真を撮る時に、心がけていることはありますか?
正子さん
「一瞬で、いい写真を撮ろうと思ってる」
――いい写真を一瞬で撮る。
正子さん
「うん。プロだからプライベートの写真でも自分にとっての名作にしようっていう根性は抜けないんだけど(笑)。いい写真を撮る!っていうのが私の優先順位のトップにあると、家庭の時間を邪魔することにもなるんだよね。だから息子の写真を撮る時は、できるだけ早く一瞬で撮るというのは心がけているかな」
――なるほど~。具体的にどんなふうにされているんですか?
正子さん
「操作でモタモタしないこと。マニュアルフォーカスのいいカメラがあっても、一瞬でピントが合わない。そうこうしているうちに、子どもに『ねぇまだ~?』って言われちゃう。息子は優しいから付き合ってくれるけど、これはダメだなと思って。だから、すぐにピントが合うオートフォーカスのレンズにかえたよ」
――まずは機械を見直すんですね!
正子さん
「そう。そうやっていつでも撮れるようにしておくと『さぁ撮るよ~』って言わなくても、滑るように撮れるようになると、時間もかからないし、いちばんいい写真が撮れるなって思ってる。カメラはいつも机の上に出しっぱなしだよ」
写真アルバムは、愛を表現するひとつのかたち
正子さん
「写真の撮り方は見直したけど、写真アルバムは息子が1歳ぐらいまでしかつくれていなくって。さっきEmiちゃんが写真を毎月プリントして子どもがいつでも見られるところにアルバムを置いている。その写真が子どもの記憶になっているっていう話を聞いて、それほんとにいいなって思った。
私はついつい気合を入れてしまう写真家・中川正子と、母親の部分を切り分けられずにアルバムづくりがあまりできていなかったから。これからはお母さんとして撮ったスマホの写真でバンバンつくりたいなって思ったよ」
――正子さんの場合は、息子さんは親から愛されているっていう気持ちを、もうたくさん持っているから、アルバムをつくるのはプラスオンな感じだと思うんですけど。
でも、多くのお母さんは、なかなか愛を表現したりとか言葉にしたりとかができなくて、手をかけられてないな…と思っていらっしゃると思うんです。だから写真というツールが子どもへのひとつの愛を表現するかたちになったらいいなと思って、写真整理の活動をしているんですよね。
*
盛り上がりすぎて、2時間を超えた(!)写真家・中川正子さんとのお話。後編は、「“自分で自分を取り戻す方法”を知っておくこと」についてお届けします。
<後編>自分で自分を取り戻す方法って? 8歳上の写真家・中川正子さんに教わったこと。
●プロフィール
中川正子さん
写真家・フォトグラファー。自然な表情をとらえたポートレート、光る日々のスライス、美しいランドスケープが得意。写真展を定期的に行い、雑誌、広告、アーティスト写真、書籍など多ジャンルで活動中。2011年3月に岡山に拠点を移す。
Instagramアカウント:@masakonakagawa