#1

COLUMN
2025.3.1

涙のランチタイム...
Cuesが思い出させて
くれたものとは

SCROLL

Sさん、この資料また商品を
間違えていますよ、
これで何度目ですか。

上司の厳しい声に、心臓がドキリと跳ねる。目の前のパソコン画面に表示された提案資料。確かに、商品内容が前回指摘された時のまま、差し替え忘れている。冷や汗が背中を伝う。

「すみません...すぐに修正します...。」

絞り出すような声で謝罪し、震える手でマウスを握る。入社式から一ヶ月。社会人としての生活は想像以上に厳しく、ミスばかりの毎日だ。都内の大手銀行、憧れの会社に入社した喜びも束の間、さっそく現実の壁に打ちのめされている。

お昼休み。ふと、カバンにお守りとして入れていたCuesが目に留まった。アプリを立ち上げてスマホで読み取ると、目に飛び込んできたのは大学生の時の写真。卒業が近くなった時にサークルの仲間と制作したお揃いのアルバムだ。指先でタップすると、懐かしい笑顔が画面いっぱいに広がる。

あの頃の私は、
今よりずっと無邪気で、
何にでも飛び込んでいける
自信に満ち溢れていた。

都内の私立大学。古びた校舎で、青春の全てを注ぎ込んだダンスサークル。副部長として、大学祭の公演成功に向けて奔走した日々。振り付け、衣装、舞台演出、広報活動…。メンバーとぶつかり合いながらも、一つの目標に向かって突き進む高揚感は、何物にも代え難いものだった。

画面をスクロールすると、汗と笑顔にまみれた練習風景、キラキラ輝くステージ衣装、そして、公演後の達成感に満ちた集合写真が現れた。一枚一枚の写真が、あの頃の熱気を鮮やかに蘇らせる。

特に印象深いのは、大学3年生の時の大学祭。私が初めて公演の企画・運営の責任者を務めた年だ。テーマは「煌めき」、アップテンポな曲からしっとりとしたバラードをさまざまなダンスの動きで表現した。

準備期間は想像以上に大変だった。メンバーの意見をまとめる難しさ、時間管理の厳しさ、練習場所の確保…。何度も心が折れそうになった。けれど、諦めずに頑張れたのは、仲間の存在があったからだ。

夜遅くまで一緒に練習したり、
意見が衝突して
言い合いになったり、
時には励まし合ったり…。

共に笑い、共に悩み、共に成長した仲間たち。彼女たちの支えがあったからこそ、私は最後までやり遂げることができた。公演は大成功。満員の観客席からの温かい拍手は今でも忘れられない。あの時の充実感は、私の人生における大きな財産だ。

そして、大学4年生。就職活動が始まり、私は今の銀行の広報部への入社を決めた。幼い頃から文章を書くことが好きで、SNS運用にも興味があった私にとって、広報の仕事はピッタリだと思っていた。しかし、実際はそうではないのかもしれない。

大丈夫だよ、Sちゃん。
きっと前に進めてるよ。

落ち込んだ時、いつも励ましの声をかけてくれたのはアルバムに映っているダンスサークルの友達だった。そして、アルバムを見返しているうちに、ふと気づいた。

今の私は、大学時代のダンスサークルで副部長を務めていた時の自分と重なっている。新しい環境、新しい挑戦、そして、責任の重さ。あの時も、不安や戸惑いを感じながらも、仲間と共に乗り越えてきたじゃないか。

スマホの画面を閉じ、深呼吸をする。あの頃の記憶は、私の中に確かな自信と勇気をくれる。そうだ、私は一人じゃない。周りの先輩、同期、そして、大学時代の仲間たち。たくさんの人に支えられている。あの時と同じように、一つ一つ課題をクリアしていけば、きっと大丈夫。新品のスーツに身を包んだ今の私は、あの頃の情熱と責任感を胸に新しいステージで輝けるはずだ。

午後の仕事が始まる。少しだけ気持ちが軽くなった。目の前の仕事に集中しよう。一つずつ、丁寧に、確実に。社会人としての道は、まだ始まったばかり。大学時代の記憶を胸に、未来を切り開いていこう。この先、どんな困難が待ち受けていても、私はきっと乗り越えられる。そう信じて、今日も一歩ずつ、前へ進んでいく。

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