近藤尚子 メイン

「WALL DECOR journal」Vol.10では、アパレルブランド「evam eva」の2019年春夏コレクションの会場にお邪魔し、デザイナーの近藤尚子さんからお話を聞きました。

2018年9月 取材・文:BAGN Inc 撮影:藤堂正寛 

ーこちらにあるのは2019年の春夏コレクションとのことですが、会場内では「WALL DECOR」で額装されたパネルが所々に飾られています。これらは本コレクションのイメージソースですか?

はい。今回のコレクションは「はためく」「蝶のような舞い」といったコンセプトで展開しています。蝶の写真が欲しくて、当初は写真家さんに依頼しようと思っていましたが、日中に私たちのギャラリー(evam eva yamanashi 形)に蝶が庭から迷いこんできて、スモークを貼った大きなガラス面に留まっていまして。シャッターチャンスとばかりに撮影しました。それがこの蝶の写真です。

 

近藤尚子

ー躍動感がありますよね。どこか夜間に撮影されたようにも見えます。このように輪郭がブレていると、その写真はなんなのかと、対象をより見ようという意識が働きますね。

一眼レフで撮影しましたが、技術的な部分は皆無に等しいので、蝶の姿をカメラに収めようと必死でした(笑)。今回のコレクションに蝶の存在は大きいですが、標本のように収まっているイメージではなく、羽ばたいているところ、もしくはその瞬間を捉えたかったというのがあります。蝶の動きが少しでも伝われば良いかなと思い、トリミングにもこだわりました。

KIKILarge

ーなるほど。今回、「WALL DECOR」をご利用になってみていかがですか。

自分の写真がこのように額装され、しかも細部にまでしっかり作りこまれている形になると、私のような素人の写真でも少し格が上がったように感じますね。撮影した写真に対しても愛着が増します。写真をプリントアウトして飾るという行為は、どうしても難しく感じてしまいますが、「WALL DECOR」は申し込みから完成までが手軽で、しかもクオリティが高くて。「ギャラリー」というフォーマットを選んだのも、美しさとさりげなさが兼備していて、そこに惹かれたからですね。最終的にこちらの展示会場に飾ることが念頭にあったので、サイズで少し悩んだくらいです。以前、子供の写真を額装しようと試みたことがあったのですが、まず写真をプリントして、それに合う額装を選んで…とかなり迷いましたが、「WALL DECOR」は種類が絞られていて、手軽でいいですよね。

ーデジタル写真が主流なってからというもの、写真に対してモノとして持っているという感覚が薄れてきてしまうので、お子さんの写真を年に一度プリントするとかそういったことも必要なのかも知れませんね。データも日々蓄積され、ましてやプリントアウトするという行為は億劫になりがちではありますから。その点、「WALL DECOR」はパソコンからデータを送るだけですから。デザインもインテリアとの親和性が高いのも特徴です。写真を額装して飾ると、撮影したときの状況、その時間に一瞬で戻ることができるような感覚もありますよね。

そうですね。一枚一枚、その背後にあるエピソードを思い出します。先ほど、今回の額装した写真がコレクションのイメージソースであるとお話させていただきましたが、オフィスではこれらの写真を貼り、コレクションの資料として共有しておりました。スタッフとは見ている景色が同じでも解釈はそれぞれですから、写真の背景にある言葉を浮き彫りにし、紡ぎ、重なり合わせ、共有することに努めましたね。蝶が飛ぶイメージ、卵から羽ばたくまでの時間の移ろい、そこで吹く風…ブレインストーミングのように連想させて、使用する素材を導き出し、洋服に落とし込んでいくという作業でした。スタッフとはイメージ、言葉、ともにしっかりと共有できたからこそ、今回のコレクションも納得のできるものづくりができたと感じています。

ー今のご時世は、ブランドの世界観はもちろんのこと、モノになるまでの文脈を含めて伝えていくことが求められていますよね。

そうですね。ただ我々はサイトやカタログでアナウンスするときは、簡素に、詩的にまとめてしまいがちになってしまうので、より純度の高い言葉は、スタッフからお客様に直接お伝えできればというのが考えですね。

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ー現在、「evam eva」は全国に直営店が17店舗あり、多くのファンに支持されているブランドですが、ブランドの成り立ちをお聞かせいただけますか。

「evam eva」の母体となるのは、私の実家である近藤ニット(山梨県)という会社です。私で三代目になります。もともと様々なファッションブランドの国内OEM生産を手がけていましたが、素材ありきのシンプルなデザインの洋服を作りたいという思いが高まり、ブランドを立ち上げるに至りました。徹底的にそぎ落としたデザインが市場で受けるかわかりませんでしたが。それが2000年。翌年から「evam eva」がブランドとしてスタートしました。無理なく自然体で長く愛着をもってきられるもの。流行に左右されずに日々の暮らしを心地よく過ごすもの。このようなコンセプトを設けています。食べ物と同じく素材ありきで、その素材を最大限に活かすように心がけています。声高には申し上げてきませんでしたが、「evam eva」に携わる方々の時間の配分や原料を大切する点にも重きを置いてます。 ものづくりと販売を同じ会社内でやっていますが、それはとても良い環境だと思っています。先ほどお話したように、スタッフがイメージと言葉をしっかりと共有していることもあり、お客様に対しては洋服を通じて、その想いをお伝えできればと思っています。モノがこんなにたくさんある中で、我々のものを選んでくださる。ならば適切な量、適切な価格でお届けするようにと心がけています。商品を見て「いいね」と言っていただくのと、それを実際に購入していただくのでは、大きな差がありますから。

img-Kaori Mochida

ー見て「いい」と思うのは共感、「いい」と思って手にいれるのは共鳴ともいえますから、その間のハードルは高いですよね。話は変わりますが、スタッフの方と接するにあたり、心がけていることはありますか?

まず商品化にするにあたり、企画のスタッフがいて、それぞれ欲しいもの、作りたいものがありますから、その声に関しては耳を傾けるようにしています。実際に企画がスタートすると時に迷いが生じることもあるので、私からそこに「evam eva」らしさがあるか、世界観がぶれていないか、ガイドラインを提示するようにしています。とはいえ「ブランドらしさ」というような明解な指標はないのですが、そこをみんなと言葉にしていくことで、おぼろげながら共有していますね。それは生産、販売、すべてにおいてです。おかげさまでスタッフに恵まれているので、チームで仕事をしていてもみんなに任せられるので、私は気持ちにゆとりがあります。それは感謝ですね。

KIKILarge
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ーそうしたゆとりが2017年3月に山梨県中央市にオープンした旗艦店 「evam eva yamanashi」にも現れていますね。竹林のある敷地内に、ショップ、レストラン、ギャラリーがそれぞれに配されていて、ブランドの世界観を細部に至るまで表現していて、お邪魔した際には驚いた次第です。

これまで仕事を通して様々な出会いがありましたが、ほんの少しだけ引く力を身に着けた気がします。 「evam eva yamanashi」の場所とも理想を思い描いていた矢先に場所と出会って。人に関してもそうですね。「この作家さんは素敵だな」と思っているとご縁があったり。最終的にはお人柄にも魅了されて、何かご一緒にでき、その後も良き人間関係に発展したり、ということがありますね。

KIKILarge
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ー昨年リリースされた音楽家・ハルカ ナカムラさんとの共作CD(「ゆくさき」1000枚限定販売)も素晴らしかったですね。こちらは「evam eva yamanashi」のギャラリー「形」で録音されたそうで、「evam eva」というブランドを音の粒子で見事に表現し、美しい楽曲の数々に驚きました。

おかげさまでCDは好評でした。ハルカ ナカムラさんやこの制作に関わってくださった方々とは私の方からこうして欲しいとか、多くの言葉を重ねていませんでしたが、美しさとか心地よさを感じるところに通じることが多く、それをevam eva の音楽という形にしてくださったと思っています。ここでも共有することの大切さを改めて感じました。私は人間関係を大きく発展させていくことよりも、頻繁に会えなくても、こうした言葉を持つ方が少しでもいたらいいなと思っています。 共有するという点で言うと、うちのカタログは紙で作成していますが、正直、webでひとつひとつ細部も見ていただけるので、紙で作る必要性はないのではないか?という思いもありますが。それでも紙をめくって見ていくことが好きだな、大切だなと感じます。なので、やはり紙のカタログは作りますね。

ー紙で読んだ本も記憶に深く刻まれますよね。そこはアナログの利点ですかね。プリントした写真を飾るということも、日本では住宅事情もそれぞれあるかと思いますが、何かしらの形で6割くらいはご自宅に写真を飾っている人がいるんですね。それは上手な写真というわけでなくても、その人にとってのお気に入りだったり、大切な写真だったり。生活の中に写真というのはかなり入り込んでいますね。

海外だと家族写真をたくさん飾る文化がありますよね。写真を飾るとき、ずっとそこに飾ってあると思うと身構えてしまいますが、これは季節ごとなどに気軽にかけ替えられるのが良いと思いました。あと感覚として触る、紙やモノとしての質感は大切だと思いますね。

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ー実感を伴うものですね。それは「evameva」のもの作りとも似ていますね。

価値観はそれぞれなのですが、私たちのブランドは女性の凛とした姿勢を表現したいのですが、甘くならないようには気をつけています。写真で言えばデジタルはデジタルで出来ることも多いでしょうし、紙でしか表現できないこともあります。私たちはマーケティングやリサーチといった事はほとんどしませんが、顔の見えない誰か、広く多くの人に届いて欲しいというよりは、自分たちが好きで毎日着たいと思えるものを作りたいと思っています。とてもシンプルなのですが好きだな、大切だなと思うことを作り続けられたと思っています。

img-Ryo Takahashi

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Profile

Prof-kazumi-hirai

近藤尚子(naoko kondo)

evam eva デザイナー 山梨在住 家業のニットメーカーを継ぎ、2001年 自社ブランド evam eva を立ち上げる。 2017年 山梨に店舗を構え ショップ、レストラン、ギャラリーを展開。 https://www.evameva.com/