イラストレーター 杉浦さやかさん 

引継いでいきたい「家族のキロク」

 

イラストレーターとして書籍や雑誌の挿絵を手掛けるだけでなく、素敵なイラストエッセイや雑誌の連載などを通して幅広い年齢層にファンがいる杉浦さやかさん。

 

日常のあれこれを独自の視点でかわいいイラストと共に綴った著書は今や40冊!と大人気の作家さんです。

 

イラストエッセイという形で長年時を綴り続け、プライベートでは6才になる娘さんを子育て中でもある杉浦さんに、写真やアルバムにまつわるお話を伺ってみました。

 

ー日常の中の様々な視点をイラストと文章で綴ったイラストエッセイを愛するファンは多いと思いますが、こういったスタイルは活動当初から?

高校生の頃からイラストエッセイを描きたくて練習していました。

小学生の頃からイラストエッセイ自体は大好きで、西村玲子さんや大橋歩さん(注1)の本などを借りては読んでいましたね。で、自然に絵日記を書いてたんですよ。

友だちとの交換日記も絵日記でした。中2から20才まで同じ友だちと続けた日記は原点にもなっています。

(注1)両名とも日本を代表するイラストレーター。おしゃれや映画、暮らしなどを題材にしたイラストエッセイなども数多い。西村玲子さんは優しい色鉛筆で描かれる洗練された絵と爽やかでスタイリッシュな文章が人気のエッセイストでもある。大橋歩さんは週刊「平凡パンチ」の表紙のイラストを創刊号から担当したことで知られ、近年では雑誌「アルネ」を創刊発行されたことでも有名。

 

ー杉浦さんは大学生でイラストレーターデビューされたと思うのですが、その直前まで交換日記をされていたんですね。

イラストレーターを始めたのが21才からだから、丁度そうですね。この他に高校生の時も修学旅行にいってはイラストエッセイを書いて、クラスの友だちに見せていました。小学生の時は一冊大学ノートを用意してマンガ雑誌を作って回してましたよ。とにかく何か作っては人に見てもらうのが好きでした。

 

 

ー記録する、という事自体がお好きだったのでしょうか?

記録することも大好きだし、人に見てもらうのも大好き。私は昔から口下手で、人にうまく自分の気持ちを説明できないんです。だから、自分の気持ちを伝えるのはずーっと絵と文章でしたね。とにかく幼い頃から部屋の隅っこで絵を描いていました。でもそんなに評価はされないでいたんですよね。学生時代もあんまり大人に認められたことがなかった。美大に入ったものの、自分は絵が上手じゃないと思っていました。でも大学2年の時、初めて大人に褒められたのがゼミの先生だった安西水丸さん(注2)。「きみ、イラストレーターになれるよ」と言われて、、もう本当に嬉しかったですね。そこからはすごくがんばりました。

 

(注2)1970年代より長年にわたり書籍の装丁、雑誌の表紙やポスター、小説やエッセイの執筆、絵本、漫画など、枠にとらわれることのない多様な活動をされたイラストレーター。柔らかくユーモアに溢れ、優しく鋭い作風が人気。2014年没。

ー写真やアルバムも時を記録する、繋げていくものだと思うのですが、杉浦さんにとってどんな存在ですか?

記録魔なので、アルバム大好きですよ!多分みんなが引くくらい(アルバムが)あります(笑)。 元々杉浦家がアルバムと日記大好き一家。家族全員アルバムと日記をマメに製作してます。 「記録を残すこと」が本当に全員好きですね。アルバム数は本当にすごいですよ。実家に何十冊と膨大にあります!母はアルバム好きが高じて自分のキレイに写ってるお気に入りの写真だけを集めた「美人写真集」を編集していて(笑)。 私は誕生日だけの写真でアルバムに作ってました。15才、16才、17才….って毎年続けて若い頃作ってました。

 

ー(笑)それぞれのエピソードが面白いですね。

とにかく(アルバムを)編集することが好きだったんですよね。

それをうっとり見返すことはないんですけど、そういう行為が好きだった。

 

 

みんなでアルバムを見るのは楽しかった。

 

ーアルバムを編集する時はどんな気持ちなのですか?

夢中で作ってしまいます(笑)。誕生日アルバムは多分実家にあるかな。父が若いころに作っていたアルバムのように、大学生まではコメントも書いて貼っていました。父や母がやっていたから、自分も同じように。

ー膨大にあるという昔のアルバムをご実家で見たりしますか?

実家のアルバムは普段は見ないですね。

夫の母が亡くなった時に、それまであまり見たことがなかったアルバムを家族みんなで見たんです。みんなでアルバムを見るのは楽しかった。そこには私の知らない義母がたくさん写っていて、、おとなしく控えめだと思っていたお義母さんが、当時人気だったロンドンのブランドのワンピースを着てたりして、めちゃくちゃおしゃれ!だったんです。「アルバムの中には私の全然知らないお義母さんがいる、もっと知りたかったな」と思いました。あと、お義父さんがいつも大きいサイズの写真をファイルに入れて渡してくれてたんですが義父は写真がそんなに上手じゃないんですね(笑)。サイズも大きいしで持て余していたのだけど、お義母さんが亡くなった後に見た時、それがすごくよかったんです。写真としては上手ではないし、自分では絶対撮らない構図なんだけど、お義母さんがいた時のごく自然な家族の風景がちゃんと写ってるんですよね。これはずっと取っておこうと思いました。

ー個人的にはアルバムや写真をよく見ていらっしゃいますか?

はい、アルバムはよく見ています。そもそも仕事を始めてから、写真から絵におこすから、資料写真が膨大にあります。町ごとにあるし、映画ならテーマごとにアルバムがあります。 娘に関しても仕事でもやっぱり描くことがあるから、きれいに分けてるかな。1才①とか②とか。 でも資料じゃなくても作ってるかな。だってアルバム作るのが好きだから(笑)。 そんなアルバムを見てると娘もどこからかやってきて、一緒に嬉しそうに見てます。だからかな、あの子は昔の出来事を覚えていますね。写真をよく見てるから、記憶により深く刻まれているのか、「あの時こうだったねー」って言ったりしてます。本当にびっくりするぐらい覚えています。

アトリエの扉を開けると、膨大な写真がありました。

ー赤ちゃんの頃から一緒に見たりしていたんですか?

見てました。あと(絵を)描いてるから、(アルバムを)出してると、見にきて「かわいいねえ(自分の事)」って(笑)。ちっちゃい頃から言ってました。

ーご結婚、出産を経て写真を撮ることに変化はありましたか?

膨大に増えた….(笑)。うーん、元々私は写真を結構撮る方だったんだけど、、数はさらに増えました。それまで1年で1冊いかないくらいだったアルバムが2ヶ月に1冊に。あとはカメラはすっかりスマホが多いかな。手軽にパッと撮りたくて。2才くらいからはずっとスマホだけですね。でもやっぱり画質はちゃんとしたカメラには勝てませんね。

 

時間は、仕事や子育てをしていたら一生ないですよね。

 

ー杉浦さんご自身のアルバム作りについて教えていただけますか?

ひと月に一度スマホアプリから作れるフォトブックも作っていますが、基本は紙焼きの写真に現像してポケットアルバムにしています。同じような写真がある時はポケットの裏に何枚も重ねて入れてます。どれも捨てられないんですよね……。やっぱり紙焼きっていいなぁって思います。

ーわかります。やっぱり手に触ったときのアナログ感がいいですよね…..でも子育てとお仕事の両立してる中、紙焼きにして編集するのは時間がかかると思いますが、日々の中でどのように作業をされているのでしょうか?

時間は、仕事や子育てをしていたら一生ないですよね。私は4時に起きてるから、娘が起きる7時までの間に雑用をしていて、その中で写真の整理もしています。でもやっぱり時間は足りなくて、だから作業もちょっとずつ遅れて今は1年前の作業をしています。

ー印象に残っている写真やアルバムはありますか?

これは夫の実家から持って帰ってきたアルバムなんですけど、、

 

ーわあ、かわいいですね!杉浦さんの作品みたいなアルバム!

これはかなり頑張ったやつです(笑)。夫の両親にプレゼントする為に作ったものなのですが、この取材のために帰省した時に持って帰ってきました。頑張ったのはこの3冊だけなんですけどね。0才から2才までの娘の写真にコメントも全て手描きで加えてあります(と、ここでアルバムを開くと娘さんとそのお友だちが寄ってきてワイワイ盛り上がる)。ベースは自分で探して、表紙はアイロン接着フェルトを切ってアップリケしてあります。

ーみんなでアルバムを見るのは楽しいですね。アルバムを見る、といえば杉浦さんが昨年挿絵を手がけられた絵本「そらはあおくて」(注3)もアルバムがテーマになっている絵本でとても素敵なお話でした。作っている時に杉浦さん自身が感じられたことはありますか?

そうですね、やはり海外は写真がたくさん残っていていいな、と思いました。実はお話を頂いた時、(編集さんから)設定を変えて舞台を日本にしてもいいって言われたんです。でも日本は実際写真がそんなにたくさん残っていないから原書のまま海外のお話になっています。私の母はちょうど戦中生まれなんですが、戦中戦後の混乱であまり幼いころの写真はないんですよ。祖母まで遡るともう一切写真が残っていない。海外でも写真が残っているのはあるクラスの人々なのかもしれないけど、でも日本だとあんなに写真は残っていないだろうと思って。だから、なんだか羨ましかったです。

(注3)杉浦さんが挿絵を担当、なかがわちひろさんが翻訳されたシャーロット・ゾロトウの日本初翻訳の絵本。母、祖母、 曽祖母と3代にわたる母娘を通してアルバムが教えてくれた、小さな幸せのお話。

 

ー確かに。でもこれから私たち世代が3代、4代とずっと残していけたらいいですよね。

そうなんです。だけど、最近アルバムがない人が多いでしょう。データはあるけどカタチに残してないって。だから私は意地でも残そうと思ってます(笑)。 そうしたら「そらがあおくて」が実現しますよね。このアルバムは義父から受け継いだら、いずれ娘に渡してあげようと思っているんです。

 

写真は超プライベート。

自分たちが見るものだから

カッコよく撮ろうとあまり思ったりしない。

 

ーイラストエッセイとして時を残すことと、写真をカタチにして時を残すことは全然違いますか?

違うかな。写真は超プライベート。でもイラストエッセイは他者に向けて描いているから、時によっては脚色もしていると思います。同じようでいて全然違う存在ですね。私も写真はそんなにうまくない方なんですよね。だけど、自分たちが見るものだからカッコよく撮ろうとあまり思ったりしない。最近はインスタなどでみんなが撮ってる写真がとても上手なので、少しカッコよく撮ろうって気持ちも芽生えました(笑)。

 

この時間が本当に楽しかったから

 

ーさて、色々とお話を伺ってきたのですが、そろそろ今回杉浦さんに作って頂いたフォトブックとウォールデコを見て頂きたいです。

(まずはフォトブックを見て)わ、すごい!こうなってるんだ!写真はやっぱりキレイですねー!勝手に編集してくれる機能が楽でした。自分であとで入れ替えるんだけど、意外と的を得た編集になっててすごいな、と思いました。写真もキレイだし、記念の時とかに作るのもいいかも。ハードカバーだしたくさん写真を載せたいなっていう時はいいですね。

 

ーそうですね。リピーターの方がとても多い商品だそうですよ。では次はウォールデコを見て頂けますか?

わーキレイキレイ!実はこれスマホの写真なんですが全然いい!あの写真でこんなにキレイになるなんてすごいですね。私もっと(画質が)粗いと思っていました。嬉しいです。

 

ーよかったです!フォトブックと同じくご家族で行かれたバリ旅行の写真ですよね。どうしてこれを選ばれたんでしょうか?

私はあまり写真を壁に飾る習慣がなくて。だから、風景っぽい方が飾りやすくてこれを選びました。夫には入学式のランドセル背負ってる写真にしてお義父さんにあげれば?とも言われたんだけど、自分だったらあんまり飾りたくないなと思って。しかもこの写真がね、すごく楽しい瞬間だったんです。娘に旅した中で何が一番楽しかった?って聞いたら、いろんなことをした中で、私と2人っきりでホテルの敷地内をゆっくり散歩して、おままごとしたのが一番楽しかったって言ってくれて。私自身もその時間はとても楽しかったんです。東京じゃなかなかゆっくり相手をしてあげることができなくて。だから、一番思い出の深い一枚を選びました。この(写真に写ってる)お花も拾って押し花にして、持って帰ってきたんですよ。

 

手元に残っていると本当にちがいますよ。

 

ーなんだかそのお話を聞いてから、このウォールデコを見るとまた違う気持ちが湧いてきます。じーんときました。  では最後に……この記事を読んでいる皆さんにアルバムを作る時などのアドバイスなどを教えてもらえたら嬉しいのですが。

そうですね、私みたいに全部を紙焼きするのはやっぱり難しいと思うのですが、やっぱり写真をカタチにするのはいいですよ。フォトブックを毎月…..毎月は難しいかな?(笑)でも手元に残っていると本当にちがいますよ。私自身1年前のアルバム作業をしてるんですが、遅れてもいいから、やっぱり作ることをおすすめします。ちなみにコンビニで写真出力をする時は絶対にセブン-イレブン!がいいと思っています。お世辞じゃなくてほんとに画質がきれいです。

 

お仕事でもプライベートでも写真やアルバムという存在が身近にある杉浦さん。子育てをしながら今でも全ての写真を紙焼きにしてアルバムにし、フォトブックをも作る作業は簡単なことじゃないと思いますが、でも作ることでかけがえのない宝物がたくさん生まれているのだな、と深く感じました。写真に対する愛情もイラストエッセイで感じる生活を楽しみ、暮らしを慈しみながら時を繋げていくスタイルと通じているようです。

取材中、ずっとお友だちと遊んでいた娘さんが、アルバムを開いているとスススッと寄ってきて、いつの間にかこちらのスタッフも交えてアルバムを囲んでおしゃべりが始まり、あっという間にその場に楽しくあたたかい輪みたいなものができたのが忘れられません。アルバムにはそんな不思議な力があるのかもしれませんね。

杉浦さやか / イラストレーター

 

1971年生まれ。

日本大学芸術学部美術学科卒業。93年の在学中より、イラストレーターとして活動。イラストエッセイの著作や、雑誌などの連載多数。

 

独特のタッチと視点のイラスト&エッセイが、読者の熱い支持を集めている。イラストのかわいらしさはもちろん、文章のうまさにも定評がある。

主な著書に、『スクラップ帖のつくりかた』(KKベストセラーズ)、『うれしいおくりもの』(池田書店)『おやこデート』(白泉社)、『すくすくスケッチ』(祥伝社)ほか多数。新作は2018年『そらはあおくて』(シャーロット・ゾロトウ (著),  杉浦 さやか (イラスト),  なかがわ ちひろ (翻訳)

 

Instagram

https://www.instagram.com/sayaka_sugiura/?hl=ja

 

Writing by 岡田季子 Photo by 藤堂正寛

 

 

「時」を飾ろう。WALL DECOR

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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