青野賢一 メイン

「WALL DECOR journal」Vol.2は映画や食など様々なジャンルの執筆を手がける青野賢一さん。

青野さんが飾る WALL DECOR は、ご本人の原体験と重なるストーリーが収められたものでした。

 

2017年8月24日 取材・文:BAGN Inc 撮影:藤堂正寛 

ー青野さんが所属されている『ビームス創造研究所』でのお仕事についてお聞かせいただけますか?

僕のいる部署は「会社の外の仕事をやってきてくださいね」というところで、クライアントから発注された仕事を行っています。要望に応じて対応して、ということでやることが決まっているわけではないんですよ。会社としては、小売業界に身を置きながらも何かしら成長させなきゃいけないっていうのがある中で、ものを作ったり、仕入れたりして売るだけではなくて、違う利益の出し方を考えないといけないね、っていう中で出てきた部門なんです。以前 PR の部署にいたときに「ビームス創造研究所」という部門を作るからよろしくって言われて、今に至っています。

 

img-Kaori Mochida

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会社の中で今のポジションにいるのは、ご自身の中で描いてきたものなのでしょうか。

よく人生設計でいくつまでにこうなりたいとかいいますけど、僕はそれが全然なくて、幸いなことに自分が興味のあることをやってこれています。今は会社の仕事、執筆業、DJ、この三つがメインですかね。

青野賢一Large

ー青野さんは大学1年生の時に『BEAMS』でアルバイトされていたんですよね。

偶然「アルバイト募集」の張り紙と出合って、もう30年ですね。

ーバイトから仕事に?

大学院に行こうかなとも考えていたんですけど、大学卒業後にそのまま入社しました。まだ当時はそんなに大きな会社じゃなかったんです。僕が入った時には都内は渋谷と原宿しかお店が無かったですし。全然(規模が)ちっちゃい。DJも今年で30年ですね。30年といえば、今年はフランス文学者の澁澤龍彦の没後30年で、実は今回の(WALL DECOR)の写真は澁澤龍彦オマージュなんです。

 

一枚の写真
一枚の写真

ー青野さんのチャンネルっていろんなジャンルを網羅されていますよね。

あんまりこれって決めていないところはありますね。それこそ澁澤龍彦の著作とか、そういうところから影響を受けたというところはありますね。 だから、今回の(WALL DECOR)の写真も実に澁澤的なんですよ(笑)。彼は貝殻とか鉱物がすごく好きな人でした。僕自身も澁澤龍彦を読む以前の幼稚園とか小学校低学年のころに、貝殻を買ってもらうのがすごく好きだった。いろんな貝が入っている詰め合わせをデパートとかで買ってもらって、それがすごく好きで。

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ーこれですか?

それです、それです。まさに現物なんです。中学、高校あたりで澁澤龍彦を知って、この人の貝殻とか形のしっかりしたものへの偏愛、そういうのが自分の中にもあったなと。

ー原体験と重なったわけですね。

そうなんですよ。だから、写真はそういう感じのイメージ。家で澁澤の本とか見直していたら、「これがあったな」と思って、撮ってみたら意外と良かった。まともに見えますよね。素人写真でもまともに見えるのと、裏がギャラリー仕様になっているのもすごくいい。お手軽なんだけど、しっかりしている良さがある。

青野賢一 イメージ

ーもともと写真って平面になるほど美しくみえるので、一度その裏を裏打ちって言って綺麗に貼って、額装をしています。展示会に行くと、たまに裏打ちしていないぶよぶよってたわんでいるものがあります。やっぱり写真を飾るときって、この平滑性が重要だったりします。

そういう意味では、すごく取り入れやすいし、クオリティもしっかりしています。例えば4枚組の写真を並べたりするのもいいですね。

ーセットで注文というのもあって頼まれる方も多いです。

そういう方が、このサイズ感とか、壁のかけやすさとあっているのかもしれませんね。ひとつの壁面を4枚のもので完成させるとか。

青野賢一 イメージ
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ーもともと日本人は壁に飾らないっていう先入観を持っていたんですけど、大きいのをやりたいっていう声も多かったりして、秋にA2くらいの大き目のものを予定しています。あとスクエアのちょっと小さめのものも。

これ軽いから、虫ピンみたいなのでも壁掛けできそうですね。そういう手軽さはすごくいいですよね。これって経年変化ってどうなんですか?

ーするかしないかといったら、退色しますけどが、極めて世の中の印刷されたものではと比較すると退色度は低いですね。いわゆる写真(銀塩)なので、退色はしにくいです。ただ、焼ける色が褪せていくのも時が流れていく感じがして、それはそれで楽しんでいただいてもらってもいいのかなと。人の写真とかも色が褪せていくこともがむしろ、より人の心により写真の価値が出るのかなぁと思っています。

やっぱり対になっているのはいいなぁ。(撮影した写真は)自宅のテーブルで撮りました。自然光一発ですよ。季節によって太陽の高さが変わるので、同じアングルで撮っても影の長さが変わる。エッセイを書いているぐるなび「ippin」の写真もここで撮ってます。 いい景色っていっぱいあるんだろうけど、それを写真にする意味ってなんだろうと思うとなかなか撮れなくて。写真という複製メディアで表現するときに、景色って自分の中で遠いなって感じたんです。それよりもオブジェの方が気になるし、好きだなって。こういうかっちりした写真もいいですね。

ー今日はお話しを聞いて、青野さんみたいなパラレルキャリアで、会社に属しながらも個人でアウトプットができる人がいたら、おそらく世の中ももっと面白いだろうし、そういうことをしたいって悩んでいる人も多いと思いました。

僕はあんまりいろんなことを切り分けできないので、ONとOFFの切り替えってないんですよ。家でも仕事をやりますし、境目がないんですよね。原稿の執筆は家でやることがほとんどですね。とにかく本とか資料をあたって原稿書くことが多いので、そういうのが圧倒的に家にそろっている。家から出なくても全然平気です。今の家が結構好きで、出かけない日もあります(笑)。

Profile

Prof-kazumi-hirai

青野賢一(Kenichi Aono)

個人のソフト力を主に社外のクライアントワークに生かす「ビームス創造研究所」のクリエイティブディレクター兼<BEAMS RECORDS>ディレクター。 「ビームス創造研究所」では、執筆、編集、選曲、他企業のイベントや展示の企画運営、ブランディング、PRなど、ボーダーレスに活動している。 雑誌『ミセス』(文化出版局)、『CREA』(文藝春秋)、トーキョーカルチャート by ビームス発行の文芸誌『In The City』、「ぐるなび」のキュレーションサービスサイト「ippin」などでコラム、エッセイを連載中。